19

 見下ろせば、大きな青い瞳とすぐにかち合う。

「……」
「犯人をやっつけてたでしょ? ガツンって殴って!」
「本当ですか」
「ええ、まあ。……だが、それを言うなら、あの金髪の女性のほうがもっとすごかったろう」
「うん、犯人に気づかれないであんなに上手にセーフティかけるなんて……」
「――よく見ていたな」
「あ! アハハ、ジョディ先生に教えてもらったんだぁ」

 アハハ、ウソだぁ。

 コナン君はあの派手な膝蹴りでなく、ジョディさんのシビあこなワザマエの方が気にかかったらしい。やっぱり変なところばっかりを見てるな。
 拳銃の安全装置にはいくつか種類があるため、彼女が一瞬かつ最小の動作で行ったアレで”セーフティがかかった”と判ずるには、それを捉える視認能力もだが、あの銃がハーフコックにすると疑似セーフティ状態になる――というかそうするしか他にない安全装置なんてクソ食らえな男気溢れるロシア軍人さん用拳銃トカレフちゃんである――という、その構造や背景についても知っている必要がある。
 そういう小学校じゃ明日使えない謎知識を保持していてかつ滑らかにスコンと出てくるあたりちょっと普通の子供とは言い難いし、あの状況で泣きも怯えもしないどころか恐怖も抱かず拳銃や爆弾やガムおばさんの時計などばかり注目しているとは、情緒の発達もなんとなく疑わしい。
 そんなところより身を盾にして守ってくれた新出先生(偽)やおろおろ心配していたお友達たちの方を気にしてやれよ。これ親御さんも普通の人なら大変だろう。ソシオパスじゃないといいが。

「ジョディというのか、彼女は」

 少し離れた席でショートカット美人の刑事と座るジョディに視線をやると、彼女は少しの間をとって不意に気づいたように一度キョトンとしてみせ、あのエキセントリック先生状態で他人行儀にニコッと笑って「ハァイ♥」と手を振ってきた。今度はなかなか良い演技だ、可愛い。満点。即採用。
 俺たちを見て、コナン君が机よりもやや小さいその体を軽くそわりとさせる。ボクの先生を汚い目で見るなってやつかな、仲良さそうだったしな。

「そ、そうだよ……たしかね」
「何の先生なんだ?」
「ボクのお姉ちゃんが通ってる学校の先生だよ。よくは知らないけど……」
「ホー、君にはお姉さんがいるんだな」
「……う、うん」

 そこらへんは詳しく言いたくないらしい、少年のやや大きなシューズを履いた足先が、俺の方から逸れ若干横を向く。
 それから、そういえば以前事件の捜査のとき彼女たちと一緒に会っただのと、場を和ませるよう朗らかに語りだそうとする高木刑事の言葉を、コナン君がなにやらわあわあと遮った。
 人のことは気になるが、自分のことは探られたくないとはワガママさんだ。テキトー言いおるし。


 ――うーん、それにしても“彼女”の視線が痛い。
 ジョディもちょっと心配そうにチラチラ伺ってきている。落ち着け、ショタコンではないから安心してくれ。

「……まあ、俺たちも多少は役に立ったようだが――なにより、バスと凶行を止めたのは君だ、レインマン」
「えっ?」

 このまま“彼女”のターゲットでありちょっとこわい子供の相手を続けて妙なことになっても困るし、撤収後ホテルや外での待機を指示しておいてほったらかしの部下たちもいる。しかもそろそろ波が来てる。
 適当に理由をつけ事情聴取は後日に回してもらうよう高木刑事に頼んで連絡先を渡し、あとをつけてこようとするコナン君を彼に押し付けて、さっさとその空間から去ることにした。

 くぅ〜疲れました、これにて尾行……もくそもなかったな……。先がめんどくさそうだこれ。


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