第1章
09
「あの、先輩」

「ん?」

「明日からも…先輩に話しかけていいですか?」

「なんで?いいに決まってんじゃん」

「その…後輩が先輩に気軽に話しかけるのは良くないのかなって…」

「あー大丈夫。うちの部、上下関係無いに等しいから。先輩達みんないい人だからそんな緊張することないよ」

「まじっすか!」

「そのかわり実力主義だから、3年間ずっとベンチってことも考えられるけどね」

「うぅっ…俺にはありえそう……」

また隙間風が吹き、柔らかい姫川の髪の毛がソヨソヨとなびく。
本当に肩を落とした彼に再びポンポンと頭を撫でてやると、誰もがそれは『落ちるだろう』という笑顔で姫川の顔を覗き込んだ。

「そうならない様に努力しような」

「はっ…はいっ!!!」

行き交う通行人全てが智希たちを見た。



「あーおもしろいもん見せてもらったー」

「びっくりした…」

その後すぐ姫川はありがとうございましたとお辞儀をし、顔を真っ赤にしたまま走り去っていった。

「でもお前のおかげで今年のバスケ部、入部希望者多いって職員室で先生等が喋ってたぜ」

「だから、俺のおかげじゃなくて先輩達の…」

「謙遜もここまでくると病気だぞ」

「……ごめん」

智希も悪い癖だと思っていた。
自分を低く言う癖。

本当に謙遜ではなく、自分なんかと思っている。これはもう性格なのか。

いや、違う。
血縁者の父親を性対象として毎日見ているイカれた自分が普通なわけない。そう、思っている。

自分は褒めてもらえるほど良い人間ではない。


褒めてくれるのは、この世で一人だけでいい。



「……やっぱついてくるのかよ」

「当たり前。あのちっこいのに邪魔されたけど当初お前といる目的は親父さん見るためだもんねー」

姫川の一件があった所為で12時を過ぎてしまった。
急ぎ足で西門へ向かい、最愛の人のもとへ向かう。

一人、めんどくさいのがついてきているけど。

すると下校する生徒達に混ざって一人スーツ姿でネクタイを緩めている有志の姿が見えた。
一瞬笑顔になるが真藤が隣にいると気づき必死に抑える。

「ごめん、待った?」

「いや、大丈夫。……おお、友達?」

「初めまして。1年から友達の真藤渉です」

「あぁ、智希から聞いてるよ。いつもありがとう」

「いえいえ。智希、頭もいいからいつも試験前とか勉強教えてもらってるんでむしろこっちがお礼言わないと」

こいつ、大人に好かれるタイプだな。
直感で思った。

野球部の荷物は大きい。そんな大きい荷物を抱えながら爽やかに話す真藤の姿はとても好青年に見える。

「じゃあ俺、部活あるからこれで」

(お前まじ何しにきたんだよ!!)

(だから、見るだけでいいって言ったじゃん)

小声で話すも、真藤は何事もなかったかのように今来た道を再び歩こうとしていた。

「よかったら今度うちに遊びにきてね」

「ありがとうございます。……あ、そうだ智」

「あ」

少し、不機嫌に。

「さっき言ってたこの後なんかあんのーって話」

「……あぁ」
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