これの続き








隣で気持ちよさそうに眠る謙也さんにベッドから持ってきた分厚い布団を適当にかぶせて、俺は炬燵の中で深夜のつまらないテレビを眺めながらさっきのホモ宣言についてだらだらと考えをめぐらせた。隣で眠る気にはとてもなれなかったし、どちらにしろ目が冴えていた。
さっきほとんど泣きながらカミングアウトした謙也さんの顔が浮かぶ。あんな顔しばらく忘れられそうになかった。一応好きな人の泣き顔を見たんだから、まだ落ち着けないんだろうと思う。心臓の辺りでもやもやどろどろと動くのはたぶん俺の自制心で、中学のころからずっとポーカーフェイスを貫いてきたつもりだったが今回はなかなか危なかった。今だってちらちらと横目で謙也さんの寝顔を見て、テレビに視線を戻して、その繰り返しでもう何分経ったんだろう。冬の夜は当たり前に寒かった。

深夜の通販番組にいい加減飽き飽きしてきたころ、謙也さんがごそごそ動く音がした。

「…光?」
「あ、起きた」
「お前なんで、」

そこまで言った謙也さんは口を開いたまま完全に静止して、みるみる顔を赤くしたかと思うと何度か口をぱくぱくさせてから今度は青くなった。

「なあ、…嘘やろ?」
「はあ?」
「嘘やって言ってくれ光、なあ」
「何がですか」
「お、俺、さっきなんて言っとった…?」
「俺はホモや言うてました」
「……………」

謙也さんはまた泣き出しそうな勢いで頭を抱えた。そんなにぐったりすることもないだろうにとは思ったが、さすがに追い打ちをかけるようなことを言う気にもなれなかった。謙也さんはすべて思いだしてしまったのだろうか。

「そない心配せんでも誰にも言いませんけど」
「…お前、ええやつやなあ…」
「まだ酔ってんすか」
「いや…」

謙也さんはしばらく放心したように布団を見つめて黙っていたが、はっと顔をあげると「さっき引かんって言ったよな」と何度も繰り返して、引かん引かんと仕方なく俺も繰り返した。

「でも笑うやろ」
「まあおもろいとは思いますけど」
「…」
「笑いませんて」
「ほんまかぁ…?」

俺だって笑えるものなら笑いたかった。そんな気分だったらこんな顔はしていない。でも謙也さんのことも俺自身のことも笑い飛ばせるような図太い神経は持っていないし、持ちたいとも思わないし、何より今は謙也さんに何を言えばいいのか分からなくて混乱している。俺は人を慰めたことなんかほとんどなかったから。

「あ、光、なんか飲むか」
「要りません」
「遠慮なんか…」
「してません」
「でもこんな時間までお前、」
「要りません、から」

俺に気遣いなんていらないから、もっと自分のことだけ考えて好きなだけ苦しんでほしいと言いたかった。でも俺にそう言う勇気は一ミリもなくて、結局は嫌々ここに来ているかのような態度でため息をついてしまう。こんな自分でいいはずがないと分かってはいる、でもそれを改善しようと行動する勇気も行動力もないのが俺という人間だ。

「…光、ずっとおったんやろ?俺が寝てる横で」
「今さら帰るのめんどかっただけっすわ」

へえ、とさっき俺が買ってきたミネラルウォーターを飲む謙也さんは久しぶりに笑っていた。それが空元気だと分かっていても嬉しくて、俺はその瞬間に流れはじめた新しい炭酸のCMが好きになった。



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