// おぼろげに渇望



 一度死んだ事がある。全てが静止したあの瞬間、俺の首とつくすべての部位に見えない糸がかかっていた。死んだと思うと同時に酷く安堵した。半壊したガレオン船の折れたマストの遥か上空に大佐が立ってるのを見上げて、首の皮が少し切れた。惚れた。敵船轟沈、船長拿捕、船員半数生死不明、海軍重軽傷者二十四名、瞬間移動して来たトラファルガー中佐にガンギレされて俺は全治二週間の怪我と一ヶ月の減給と五時間の大説教。
「じゃあさっさとドフラミンゴとこ行きゃいいだろうが」
「毎回!毎回だしてるっスよ!申請!!」
 また駄目だった。大佐直属の遊撃部隊はかなり大本命だったのに。カウンターの上で氷だけになったグラスを握りしめる。
「欠員滅多に出ないし人気すぎて倍率やべーし本当に合格者出てるんですかねェ!?」
「欠員はちょいちょい出てるが」
「え」
 顔を上げるとトラファルガー中佐が目を逸らした。今なんか、言っちゃいけない事言ったな?どういう事だ。非公開なのか?ずっと大佐の右腕的に動いてたのに数年前の再編成で当然と中佐に抜擢、以降こいつの部隊がドフラミンゴ大佐隊への裏登竜門とか言われてる。もしかして俺にわざと伝えてくれてないてことか?話聞いてくれると思ってたのに意地悪だ!
「能力者は人数上限あって取り辛いんだよ、大体お前みたいな間違ってなったようなうっかり能」
「うるせーッ」
 全貌の見えなかった悪魔の実の能力もコントロールできるように毎日練習して色々理解してきてるし、俺はもっと役に立てる。剣も銃も練習してる。勉強はちょっとかなり苦手だけどこないだ千人組み手も突破した。おかわり来たと思って一気に煽ると氷水だった。なんでだ。
「飲み過ぎだ」
「ぜったい、やくにたつのに」
 中佐がため息をつくので俺もため息をつく。俺は頭が悪いけど体は丈夫で、誰かの役に立ちたかった。東の海の片田舎出身でも、やろうと思えばなんでもできるって運命が背中を押してくれたのに。どうして、どうして。瞼が重くなってきた。
「憧れが強いと早死にすんだよ、お前は危ねェ」
「なんだァ!?やっぱお前が最終関門か!?髭マウンテンヤローが!」
「あァ?!てめ、話聞いてんのか?!」

 くそ、どこの世界に当たり前に潰れて上官に金払わせて背負われて鼻息ぴよぴよ言わせてる軍人がいるんだよ。今俺の背中にいる。xxxの宿舎の部屋番号も鍵の場所も覚えてしまった。頭痛がしてきた。バーの扉が後ろで閉まったところで背負い直してるとデカいのが地下のバーへ続く階段を降りて来た。私服のラフなリネンシャツにオーバーサイズのカーディガンで全然気がつかなかった。週末の夜だ、基地からも近い。いてもおかしくない。
「よう」
「うおっ」
 揺れかドフラミンゴの声のどちらかで背中のxxxが顔を上げた。
「んわぁ、ろふらみんごたいさらぁ」
 俺に背負われてるせいでいつもより顔が近くて嬉しそうだ。ふざけるな。意識が戻って力が入ったxxxの腕で一瞬俺の首が締まった。
「おい敬礼、憧れなんだろうが」
「そうれす、らいすきれすーんふふ」
 肩を持ち上げて揺するがニコニコするだけで全然する気配ない。ドフラミンゴも屈んでxxxの顎の下を猫触るみたいに指先でついと撫でた。あーあー、男も女もひっかけやがって。
「これが八岐大蛇か」
「フッフッフ、可愛い顔してるよな」
「へへぇ」
「あ!クロコダイル大佐、お疲れ様です」
 しまった、後ろに誰か連れいるなとは思ってたけどドフラミンゴがデカくて見えなかった。両手が塞がっていてわたついていると右手で敬礼は不要だと払ってくれた。正直ありがたい。この人顔が怖いだけで出来た人なんだよな。
「なかなかローが離さねェ」
「ほぉ」
 ドフラミンゴがxxxを撫で終えて狭い階段で俺とすれ違う。手伸ばして掴んだりしなくてそれはよかった。大佐同士のサシって何話すんだろ。コエーな。カラン、と入店を告げる小さな鐘の音に重ねて、おっさんどもが俺を野次る。
「早くしろよ」
「頑張んな若人」
 違う。うるせェ。違う。コイツこの後おぶってやってる俺の耳元で中佐おしっこ出ちゃいそう、とか妙に色っぽく言ってきたりするんだぞ。違うけど、カッコつけの大人のお前らは、一生俺と交代できやしねェんだからな。ただxxxお前はそこで漏らしたら殺す。




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