// ねこは不吉のしょうちょうなので



火薬庫で喫煙するな。

「アッ、ダメおく、っひ、ぁ」

バスルームで致すな。

「も、でない、ッ、ほんと、ほんとに、や、ヤダもう」

キッチンもだ大馬鹿。

「もおしない、しない、ッてばぁ、ソコ、ばっか、やだあ、ッ、アッ」



「もぉゆるして、ごめんなさいぃぃ!」



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フォークに刺した腸詰めソーセージを目線の高さまで持ち上げる。くるりと回して上弦に角度を調整する。中指ほどしかない太さで緩やかな弧をひいてジューシーな香りを纏っている。

「おしおきセックスってやつかあ?」

「ソックス?」
「ばか、バギー」

朝からやめろよ、と向かいのテーブルのシャンクスに小声で咎められる。ありゃ、おませさんには意味伝わっちゃったか。
もうね、舌の根も尻の穴も乾かないのよ。俺謝ってんのにさ。怒る度に躾だと言わんばかりにやばいセックスされて、今日も立つのダルい。ハマっちゃったのかな。あんなイかされたらしばらくちんこ使いもんになんね。

「上手だからまた困んだよなぁ」

長めのため息をテーブルに吐きだして出し切る。下手よりいい、下手よりいい。ぶらぶらさせてたソーセージを思い切り齧ると張りのある皮が脂と一緒に弾けた。美味しい。お肉すき。海の上ではどうしても魚料理が多い。美味しいんだけどね。フォークに伝いはじめた脂を先に舐めとって、反対側を齧った。



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雲のない空の中心に太陽が登り真上から鋭い視線を投げているころ、敵船がはっきりとこちらへ進路を向けた。速度の出る良い船だ。水平線の先へ消えれば良いものを。
間も無く接触した。こちらの倉庫に空きはある。積荷は根こそぎとの指令が出ている。バギーとシャンクスが敵船へ飛び移っていった数十秒後に、戦略的撤退と喚きながらバギーだけ大人数人に追いかけられて引き返して戻ってきた。シャンクスも遅れてその集団の後からこちらの船へ飛び戻ってくる。

「バギー危ねェ!」
「ぎゃー!」

ついていた頬杖を崩し、背伸びをして檣楼の縁に足をかけた。その刹那、瞬きほどの束の間であったが見えた。

太陽が落とす濃い影から大きな前足がのっそりと現れ立体を成し、バギーを追う集団全員を横なぎに払った。

出番かと握った剣の柄は、そのまま抜かずに止まった。影が自らの形を得て動いているようだった。軽々と払った人間の体へ鋭利な爪を出した追撃で腹を裂く深傷を負わせた。狩りをする獣の腕だった。注視するが水面へ潜るような音をたてて、闇に溶ける獣は既に影に消えた。
大型の、黒い、爪のある。いや、駄目だな。元がアレでは、獰猛な獣ではなく引っ掻き傷を作る程度の生き物しか想像出来ない。
戦闘中は船室に引っ込んでるはずが何故こんなところにいる。目の前で友達、ましてや子供が刃物で襲われて悲鳴を上げていたら、反射的に手が出たか。

「xxx、いるな」

「見つかってた」

いつもより感知が難しかった。檣楼から降りてきてこの辺りかと日陰に声をかけると、船室の扉が開いて内側から顔を覗かせた。始終笑っているような男の顔が微かに強張って見える。

「レイリーさん、俺ら、俺らが見に来てって言った、ごめん」
「面白い作戦!だ!と思ったんだ新入りにも見せようって」

喧騒から身を守るように壁際に立ち眉を下げたxxxの前にシャンクスが間に入ってきた。私がまだ何も言ってないのに、転がってたバギーも慌てて起き上がってシャンクスの横に腕を振りながら立った。いつもxxxが私に怒られてるからだな。特段今は叱るつもりはなかったが、どうするか。


「うお、誰が暴れたんだこりゃ」

右手で顎に触れてるとギャバンが敵船の珍しい形の錨を担いで戻ってきた。船縁に一列に叩きつけられた敵船員を足蹴にしている。お前さんもどういう暴れ方をしたんだそれは。あったところに戻してこい。

「あっ、あー、えーとね」

能力者のxxxがやったのは間違いない。ただ、本意ではないらしい。手を挙げれば栄誉が手に入る場面で何かないかと目を泳がせている。

「俺!俺がやった」

ひょいとシャンクスが間に入って、サーベルを掲げて歯を見せて笑った。

「おっ、ほんとかぁ!?」

ギャバンがシャンクスの肩を捕まえて小突き始めると、息をついたようだ。
海賊になりたいわけじゃない。誰かを傷つけたり出し抜いたりしてまで何かを手にしたいという思いはない。もうxxxの居心地のいい世界は完成していて、何処へも行かないと決めている。もしくは、どこへも行けるわけがないと。
私たちと違って、何も持たない。丁度置けそうな空間があるのにロッキングチェアを置くこともしない。誰もが招かれるようでいて、その実何人たりとも踏み込ませない。いつか失うなら何もいらない。必要なのは美味い飯と今夜の寝床だけ。
そうして誰の手にも入らないxxxを、誰もが手に入れたがる。



「あのさ、xxx足刺されてね?」

「えっ」

何度か目をこすっていたバギーが指差した箇所にその場の視線が全て集まる。
左腿裏に短刀が肌と垂直に刺さっていた。薄手の麻のハーフパンツは貫通していた。

「わぁ!え何これぇ!どうしよう!え!?どうしよう!?気付かなかった!」
「落ち着け、抜くなよ」
「俺クロッカスさん呼んでくる!」

バタバタと足踏みし始めた。抜きかねない。急いで暴れる前に両腕を体の脇から動かさないように両手で掴んだ。

「なんで!?怖い怖い!取って!」
「取るな!」
「いつ!?いつ刺さったの!?」
「こっちが聞きたい!」



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自分で歩けたが念のため医務室に背負っていった。外の状況も気になるのでクロッカスに任せ、また戻ってくると診療台で足に包帯を巻かれているところだった。
これくらいならと麻酔無しで縫われそうだったのを大泣きして貴重な麻酔使用で縫ってもらったらしい。甘やかすな。
因みにハーフパンツを切った時xxxが下着を履いてなかったようで、クロッカスが笑いながらそれを私に耳打ちしてきた。またか。今朝からずっと私の部屋に落ちてるということか?信じられん。

「あいつすごいなぁ、俺なんかよりもうすっげぇしっかりしててさぁ」

私が額にてをやってるのは気にもせず、別の男のことを考えているらしい。
ここからどんだけしっかりした大人になるんだろうなぁ、ちょっとこわいなぁ、と寝台の上で胡座をかき、震える右手の掌を見つめながら誰に言うわけではなく一人で呟いている。
その右手へ手を伸ばし、掴んでしっかりと握った。震えが止まるように。

「しばらく大人しくしておけよ」
「えー」
「たまには言うことを聞け」

ぐいとこちらに引き寄せるように手を揺すった。安静にと言われただろう。
上目に私を見てんふふと得意げに鼻で笑ってから目を三日月形に細め、はぁいと返事をした。
手が掛かる。目が離せんな。




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