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金造くん、こんにちは。
京都から戻って、もう一週間くらいたったと思います。
金造くんは、あれからどうですか?元気にしていますか?
私は現在上一級に昇級すべく祓魔塾で勉強をしています。金造くんの弟である志摩廉造くん(いつもは志摩くんと呼んでいるので志摩くんと書きます。)と一緒に勉強している科目もあります。
志摩くんたちと一緒に勉強している科目の一つは私よりも年下の先生が教えているんですよ。奥村雪男くんです。
奥村雪男くんと、奥村燐くん兄弟がサタンの落胤だということはご存知だと思います。
そこで、相談したいのですが・・・
燐くんや雪男くん、祓魔塾のみんなには私がサタンの炎を身に宿していることを伝えていません。伝えたほうがいいのでしょうか、それとも伝えないほうがいいのでしょうか。
今まで音信不通で、突然メールしてきたと思ったら、相談事ですいません。
でも私の今近くにいる人には、あまり自分の弱いところをさらしたくないのです。
よろしくお願いします。
「・・・・」
「なんや金造、難しい顔して。」
昼休憩のときに携帯を開いたら、ちょうどメールが来た。縁側に座って開く。なまえからだ。メールどおり、今までまったくメールも何も寄越さず(俺からのメールも返信せぇへんし)どうしているのかとまさに気にかけていたところだった。
俺はどう返信しようか眉を寄せた。こういう難しいことを考えるのは得意じゃないけれども、なまえのためなので考える。
そんなところにちょうど柔兄がやってきたので、もちろん助けを求めた。がんばるといったって俺の馬鹿すぎる頭では考え付かないところがある。
「あー・・・柔兄。なまえからメールきたんやけど・・・」
なまえの名前を出したとたん少しだけ柔兄の表情が硬くなった。今までなまえを疑っていたことを吐露してからはなまえへの疑惑はなくしていこうと努力はしているけれど、まだ完全ではないのだ。
柔兄はなまえを信じていないといったが、本当はそうではないと俺は思っている。柔兄はきっと、俺と同じで腹立たしいのだ。なまえがすべて受け止めてしょうがないって笑うから。何も言い返したりしないから。ほかの人の言葉や感情を受け取るだけ受け取って、自分の中で飲み下してしまっているなまえに腹が立つのだ。柔兄や俺からすれば短所といえるところだった。
一番覚えているのは、柔兄がなまえに対する疑念を口に出したときだ。
なまえは「どうしようもないね」と笑った。自分を嘲っていた。俺も柔兄もなまえに望んだのはそんな言葉じゃなかった。でもなまえはどうしようもないと言う。相手のことばっかり考えて、どうしようもないって言って、許してしまう。どうしようもないという一言で、許してほしくなかったのに。
なまえは人を責めることを知らない。誰にだってそうだ。いつも責めるのは自分なのだ。そういうのが歯がゆくて、柔兄は嫌なんだ。
柔兄はなまえ自身を信じていないわけじゃない。むしろ信じている。信じられないのはきっと、なまえの無意識のうちに作り出した"仮面"だ。
そんな仮面を少しだけはがしたメールは、柔兄だって見たいだろう。きっとなまえに対する信じれない気持ちが少しは晴れる。
「・・・・そうなん?見てもええか?」
柔兄はしばらくの沈黙のあと、恐る恐るといった感じで聞いた。俺は「たぶん」といってうなずく。
「見てもええと思う。」
ほい、と携帯を見せたら柔兄はしばらく眼を左から右へと何度か動かし、それがとまったと思ったら「んーー・・・」といううなり声を上げた。こういうのは誰でも難しいものなのか、と自分の馬鹿さが証明されなかったことに少しだけ安堵。
「難しいな。」
柔兄が一言ばっさりいった。うん、確かに難しい。でもあきらめたりせえへんよな?一緒に考えてくれるやろ?という期待を込めて、「まあ、いったん隣座らん?」と声をかけてみる。
「俺は、言ってまえばいいと思うんやけど。」
携帯をみてうなる柔兄に隣から自分の意見を言ってみた。なまえが言わなくても自然とばれてしまいそうな気もする。たまになまえは抜けたところがある。
「でもなあ、こういう複雑なことは・・・いきなり、私はサタンの炎もってますゆうても、パニックになるだけやろ。」
「そんな気ぃもするな。」
「言わんわけにはいかんしな・・・相手がサタンの炎に理解あるやつやとええんやけど。」
柔兄は携帯の画面とにらみ合いを続けながら独り言のように呟いていく。
「理解あるやつてどういう奴?」
「サタンの炎のことを嫌がっとらんやつちゅうことでええとは思うけどな。」
「じゃあいったんそう送ってみよか!」
「あほか!余計悩ませるやろ!」
「っったあ!」
軽はずみな言動だったようで思いっきし叩かれた。どうやら柔兄は思っていた以上になまえのことを真剣に考えてくれているらしい。疑っていたけれど、大切だとも思っていたみたいだ。男からすればなまえは恋愛的にも友情的にも魅力があるということを理解した。
兄弟して、なまえには特別なもん感じとるっちゅうことかな。
「お前はもうちょい先のこと考えなあかん。」
「ふーい・・・」
俺は小さく返事をした。柔兄に怒られるのとお父に怒られるのはどうも苦手というかなんというか。
「にしても、状況もつかみづらいところがあるな・・・」
柔兄がメールの文面を見ながら言った。
「せやな。詳しい状況の説明とかなんも書いてないし。」
「あ、下にまだつづいとるやん。」
「え、ほんま?ちょお貸して貸して!」
「おん。お前宛やし、お前が先に読んだほうがええやろ。」
ほい、と柔兄から携帯を受け取って俺は急いで画面を下へスライドさせた。
がしかし。
「っ!?!?・・・な、なんやこれぇ!!」
「どないした金造!」
俺は思わず縁側から立ち上がった。目が飛び出すかと思った。
俺の驚きっぷりに柔兄が驚き体を引いた。それから俺の携帯を覗き込もうとする。
「み、見たらあかん!!」
あわてて、見せないように携帯を自分に引き寄せる。見ないほうがいい、というよりも見せたくない。俺だけが見ときたい。
さっき柔兄が行ってたみたいに、これは俺宛のメールやし!それに柔兄にはあの蝮がおるんやしええやろ!?
って、そうじゃなくてその前になまえの身が危険にさらされてる・・・!
「落ち着け金造。何が書いてあったんや。」
「いい、いやそれよりも、こんなのんびりしとる暇やあらへんくなった!俺今から休暇取るわ!」
「は!?なんゆーて、」
「今から東京いってくる!」
「はああああ!!?」
柔兄のあまりの大声に近くにいた人がいぶかしげにこちらを振り向く。そんなことにかまっていられない。
「お前、メールの返信のことどないするきや!」
「あ、せやな。」
準備をしてこようと歩き出そうとしたときに柔兄に言われ、今まで突っ走りすぎていた気持ちがいい具合に落ち着いた。
「ま、直接行って、何とかしてくるわ。」
何にも考えていなかったので、取り合えずそういうことにしておく。
「行き当たりばったりで大丈夫なん?」
「なんとかなるやろ。」
「いやいやなるわけないて。」
引きとめようとする柔兄。急に休暇なんて普通考えたら無理だし、心配して言っているのだということもわかっている。だがもう行くと決めたことだし、後は進むか進まないかそれだけなのだ。それだったら進むしかないだろう。
「んー・・・大丈夫やと思うけどなあ。」
「お前みたいなやつ一人で行動させたらなにしでかすか・・・」
「なら柔兄一緒に行こか。」
「はあ?」
「こないだ約束したやん。」
一週間ほど前、なまえが此処を去った直後のことだ。
なまえが去るときの柔兄は、見ていてとにかく切なかった。その言葉に尽きる。
扉の向こうの光に溶けていきそうななまえの後姿を見詰めていた柔兄の表情は胸に押し寄せるものがあったのだ。
なんとかしたい、という自分勝手な気持ちだったがないよりはましだった。
俺は柔兄に東京に一緒に行ってなまえと仲直りしようと言った。柔兄はせやな、て返事をした。
今、約束を果たしてもらうときがきたのだ。
「そんな急に約束果たせるわけ・・・・」
柔兄はもちろん、一度断ろうとしたのだった。
が。
「あ。」
ぶぶ、と携帯が振動した。マナーモード中だったのだ。開くと電話だ。しかもお父からだ。柔兄に、お父から電話が来たといって携帯の応答ボタンを押す。
《もしもし、お父?どないしたん?》
《金造、お前今から東京いけ。》
《え、ほんま?》
《おん。不浄王討伐の際に応援にきた霧隠シュラという人は覚えとるか?》
《あー、あのめっちゃおっぱいでかい赤い髪のねーちゃん?》
《・・・この際突っ込まんけどな、その人が用があるらしい。》
《何のようなん?》
《知らん。観光ついでに行ってこい。》
《分かった。じゃあ柔兄連れてってええ?》
《なんでや?》
《最近休みもろくにないし、観光っちゅうことで。》
《・・・・有給休暇としてなら許可する。》
《ほな、そうするわ。》
電話を切る。電話の内容がなかなか掴みずらかったのだろう。知りたげな表情だ。
そんな柔兄に俺はニヤリと笑って見せた。
「じゃ行こか。柔兄。」
「お父、許してくれたんか!?」
「そういうことや、せやからさっさと準備するで柔兄!!」
俺が勢い良く言うと柔兄は少しオロオロして半分心ここに在らずと言ったような返事をした。
いつもは勝ったことなんてない柔兄にぎゃふんと言わせたみたいでなんだか面白い。俺は柔兄の背中を押しながら今だけ柔兄よりも年上気分を味わっていた。
いろんな意味でレスキューなまえも柔兄も俺が助けたるわ!