19
正十字学園に戻った私はすぐにシュラに会いに行った。
「あたしになにも言わずに行くなんて、こんにゃろ、こんにゃろ、」
「ご、ごめん、だからくすぐらないで・・・!」
笑い転げそうになるのを必死でこらえる。くすぐりに弱いのだ。
「にしても、随分早く帰ってきたな。」
「うん。いろいろあって。」
散々くすぐられたあと過呼吸になりかかったりと大変だったのを過ぎ、落ち着いてから真面目な話へと移行した。
メフィストから言い渡された一ヶ月よりも大分短い時間で私は帰ってきた。私が暴走したせいなのだが、その原因は悪魔たちが私に深く関わろうと手を伸ばしてきたことだ。
メフィストが私を連れ戻したのは悪魔共についての情報を得るためと、私の身辺の守備を固めるためだったと言う。こういうところはメフィストは頼りになる男だ。いつもは胡散臭さ満載のおちゃらけぶりだが、さすが騎士団で名誉騎士の称号をもらうだけある。
ざっと今までの経緯を話したところシュラは難しい顔をしていた。
「その悪魔たち、サタンを倒すって復活できないようにするってことかにゃ。」
「たぶん。虚無界の中でも勢力が別れていくつかあるみたい。」
「そういう時に虚無界を直接叩けりゃ楽しいのに。」
「そんなことしたら物質界は負けるでしょ。」
「まーな。」
むう、と唇をとんがらせてシュラは腕を組んだ。これは私達だけでどうこうできる話ではないからあまりあれこれ悩んでも意味がないと私は思うけれど、上一級のエクソシストというのは会議などにも召集されるのだろうから自分なりの考えを持っておきたいのかもしれない。
「・・・なあ、なまえ。」
シュラのいつもよりも低めの声に私は少し緊張した。こういう時のシュラはとても真面目で、いつでもいろんな人のことを思いやっているのだ。
「上一級祓魔師にならないかにゃ。」
「・・・」
「嫌なら、別にその必要はないけど・・・あたしはなまえが自分自身を守るためにも、なまえに上一級になってほしい。なったらなったで大変なこともある。なまえの場合は、嫌なことが多くなるかもしれない。ただ、それ以上に上一級には権限と、力がある。」
「・・・わかってる。」
「普通だったら望んだってなれるもんじゃない。でもなまえなら十分に力がある。
嫌なのはわかるけど・・・考えておいてほしい。」
「・・・うん。」
私は俯いた。シュラが私を無条件に心配してくれているのがわかる。でも、その心配よりも不安な気持ちが私を覆う。
こういう時、彼だったらどうするんだろう。あの太陽みたいな彼だったら。
たぶん、彼は迷わず進む。彼なら、道を切り開こうとするのだ。その先に見えるものが何であれ。
私にはそんなことできない。そんな風に強くなれない。私なんかが・・・
―――自身もてや!
不意に、彼の声が頭の中にこだました。叱咤するような、それでいて元気づけて手を差し出してくれているみたいに。
はっとして顔を上げた。
優しく、にっこり笑いかけてくれる彼の姿が思い浮かぶようだった。
「シュラ。」
まだ残る不安を握りつぶして私は彼女の瞳をまっすぐに見た。
「私、やってみる。」
シュラが、にいっと笑って私に抱きついた。
決断の時(そういやなまえは勉強できんの?)
(そりゃ少しくらいならできるに決まってるでしょ。)
(上一級はだいぶ難しいぞー。)
(・・・・・)