Blue Exorcist | ナノ



17

「・・・ここは立入禁止のはずやで、金造。」


柔造君が、静かに怒っていた。そこには背筋が凍るほど冷淡な顔をした柔造君がいる。温和だったいつもの表情は冷たく凍ってその冷たさが身を刺すように痛い。


「柔兄がはよなまえの潔白を証明せんせいやで。それに、お父の許可はもろた。」


金造くんがありったけの憎しみをかき集めて柔造くんを睨んだ。ありったけの憎しみといっても、金造君にとって兄という存在は憎むべきものではなく信頼するもので、憎しみきれない睨みだった。


「・・・すまんけどな金造、俺はなまえが潔白だとは思うとらん。」


柔造君が金造くんというよりも私に聞かせるように声を低めていった。

彼はここに来て、私と話すときどんな思いだったのだろう。そういえばどんな表情をしていただろう。今のように疑心暗鬼の瞳で私を見ていたのだろうか。

彼は私に一度も疑う素振りを見せず優しかった。

だがその彼の優しさは私から情報を引き出させるための餌に過ぎないものだった。彼は私のことを目の前に吊るされた餌に飛びついてもっともっとと無様に尻尾をふる犬に見えていたことだろう。


「お前は防犯カメラ見とらんやろ。だからそうやって信じれるんや。」


「柔兄、なまえの前で、んなこと言うなや!」


金造くんが、柔造君に掴みかかった。柔造くんは何をせずギロリと金造くんを睨みつけた。


「やましいことなかったら、すぐに事情打ち明けると思わんか?」


金造くんが後ろに数センチ下がる。言葉に詰まる代わりに、体が下がったのだ。


「なんか言えん事情があるとか、言ったら俺らが傷つくかもしれんとか、そう思って言わんのかもしれんやろ・・・!」


「そら俺も考えた。考えたけど、俺はお前みたいに馬鹿正直には信じられん。」


金造くんの目が見開かれた。眉が釣り上がり柔造くんを掴む手の力が強くなる。


「柔兄のほうが、なまえのこと知っとるはずなんになんで信じられんのや?」


精一杯怒りに任せてしまうのをこらえた金造くんの声がとても悲痛なものに聞こえた。

兄を攻めるのは、やはり辛いのだ。


「よく知っとるからこそ、信じられんのや。
・・・知っとるか。こいつはいつも笑顔やろ?でも感情を顕にしたとこ見たことあるか?ないはずやで。
それがこいつなんや。笑うのは表面上だけで腹ん中では何考えとるかわからん。だから俺は信じられん。」


柔造くんの言葉が一つ一つ刺さっていく。

それは私が自覚していたことだ。

人見知りな私は初対面の人となかなか話すことができなかった。いつもシュラの影に隠れて黙っていた。けれどシュラと離れればそんな訳にはいかない。それに任務がうまく行かなくなってしまう。だから笑顔で仮面を作って人と接するようになった。

高校生の時は違った。本当に無口で無表情で柔造くんもそういうイメージで私を見ていただろう。しかし祓魔師になってから急に笑顔になったのだから不審に思うのも無理はない。


「柔造くん。」


声がかすれながら柔造くんを呼ぶと、ぴたりと二人の口論が止まった。

じっと気持ちが沈むのを待っているとその間に金造君の手が柔造くんから離れる。


「ずっと、そう思って・・・?」


「そうや。」


鋭い眼光が私を射抜く。

けれど私はぼーっとその瞳を見つめた。たまにだけれどその鋭い眼光は見たことがあった。私がサタンの力を持っていると初めて知った時や、私がその力を行使した時。それから、私が表面上だけ笑みを浮かべた時。

ああ、そうか。これは憎しみだ。彼は私を憎んでいるんだ。正確には私のサタンの力を。そして私を仲間だと認識してはいないのだ。何を考えているかわからない奴として警戒し、敵だとすら思っていることだろう。

だって彼は身内を忌々しい青い地獄の炎に殺されている。私だって両親を殺した自分のこの炎が憎くてたまらない。

柔造君の憎しみの気持ちがわかってしまうと、彼が私を憎んでいることはなんだか仕方のないことに思えた。


「・・・それならどうしようもないね。」


私は自嘲的に笑っていた。そうすると柔造くんの眉間にシワが寄せられ金造くんが、私を怒る。


「何がどうしようもないん?別に悪いことしてないやろ!?」


「二人共、サタンの炎に大切な人奪われてるでしょう。柔造君がサタンの力を持つ私が信じられないのは当たり前だと思う。」


「せやけど、」


「ねぇ、どうして金造くんは私が信じれるの?」


「それは・・・」


金造くんが俯いた。先程までの勢いがなくなり、申し訳なさそうに私に頭を下げるみたいに。

その時だった。

ぼむ、とピンク色のファンシーな煙が突如現れた。

驚く暇もなく白いハットに白い彼なりの正装を身にまとった道化師が現れ、これはこれはなどと言い出しそうにしながら、にんまり笑う。


「これはこれは、皆さん顔がお暗い。」


あ、やっぱり言った。と、私は今までの気持ちを忘れて少し笑いたい気分になった。

メフィストがいると、どうしても私はその場がとても明るくなるような錯覚を覚えて自分の気持ちも明るくなる。だが、どうやらそれは自分だけのようで、今も私だけが笑いたいような明るい気持ちになっている。


「どうしてここに?」


私が代表して聞いてみるとメフィストは待ってましたと言わんばかりにパチンと指を鳴らした。

続いてパキリという音がして、私をつないで
いた鎖や足かせ、手かせが外れる。体が、今まで重かったけれどふわっと軽くなった。


「お迎えに上がりました☆」


さも紳士のごとく私に手を差し出すメフィストの手を私は無意識のうちに掴む。引っ張られた、という感覚もなくふわりと私を立ち上がらせると彼は私の手の甲に唇を寄せた。

急なことに頭が追いついていない私はただぼうっとメフィストを見つめていた。


「では、参りましょう!」


マントをはためかせ、メフィストは指を鳴らそうとした。

と。


「おい待て!」


金造くんが、声を張り上げた。



掴まれた腕


(すいません。その手を離してください)


(そしたら、なまえは行ってまうやろが・・・!)


(・・・痛い。)

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