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くれくれ坊や




『ん!!』


そういって、顔をむすっとさせながら照れ隠しに手を突き出す姿はなんとも愛らしくかわいらしかったのを覚えている。

それは私が中学校一年生のころ。

誕生日の翌日のことだ。その日はあのうっとうしい太陽が薄い雲に隠れて心地よい温かさになっていた。

朝、学校へ行くために通学カバンを手に家を出た私。

するとちょうどインターホンを押そうとしていた彼がそこにはいた。

おかっぱのように前髪と後ろ髪を綺麗に切りそろえて、まだぴかぴかのランドセルを背負った彼はかわいらしかった。


『あれ?おはよう、どうしたの?』


そう訊けば、彼は機嫌悪そうに『ん!!』というと私の手に何かをつかませて逃げるように学校へと行った。

どうしたのだろうと思いながらも手を開き、つかませられた何かは何かと見てみる。

そこには私が以前好きだといった、あるお菓子会社のしゅわしゅわキャンディーのりんご味があった。

覚えていてくれたんだ、と思うと同時に嬉しかった。おそらく私の誕生日が昨日だったと知って渡してくれたキャンディーが。

中学校へ行く道すがら、私は校則違反だけれどキャンディーを舐めながら学校へ行った。



キャンディーをくれた彼は、いつもは私におねだりをしてばっかりの少年だった。

私と会うとすぐに彼は手を突き出し、あるものを要求した。

それは私がいつも外に遊びに行くときは母に持たされる麦茶だった。


彼のうちは紅茶派で、私のうちはお茶派だった。

たまたま家が近くで彼はよく遊びに来てくれていた。

私は彼が遊びにくるたび、彼の家が紅茶派だと知っていたから紅茶を母に頼んで出してもらうのだけれど、ある日紅茶が切れてしまった。

そのとき母はお茶でいいかしら?、と、紅茶のティーバックを買ってこようという気にはならなかったらしい。

好き嫌いの多い子供の彼の意見など聞かずにお茶を入れた。

彼は出されたのが紅茶ではなかったことに最初は怪訝そうに眉をひそめた(さすがお子ちゃま、素直だ)が、一口それをすすると目を見開いた(そのときの彼はとてもかわいらしかった)。

『うまい。』と一言彼は言った。

生まれて始めて飲んだお茶が彼にとっては衝撃的においしかったのだ。

それから彼はどんどんお茶が好きになって、さらには和食までも好きになっていった。

家では洋食しか出ないらしい。私の家にわざわざ和食を食べに来た。


彼の好物は蕎麦だった。彼の来るたびに母はわざわざ蕎麦を作った。


だから彼は、私に会うと必ず麦茶を要求してくるようになったのだ。



会うたびに、麦茶をくれというものだから私は彼にひそかにあだ名をつけた。


その名前を一度彼の前で口にしたら、彼はものすごく怒った(怒った姿も子供らしくて可愛かった)。


だけど私はその呼び方を改めることはなかった。



私は彼をこう呼んだ。







(麦茶、くれ。)


(どんだけすきなの、お茶。)


(蕎麦もだ。)



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