Short | ナノ


02





「はっ、甘ぇ。」


パァァンッッ!


神田先生のポツリとつぶやかれた一言のあと、瞬時に竹刀が弟の面にヒットした。

弟を心配するよりも先に、神田先生を賞賛する「おぉ」という声が出た。

その声が出てから、私ははっと、弟のほうを見た。

一本、とられてもまだ面の隙間から垣間見える弟の瞳にはあきらめの色は浮かんではいない。



一生懸命に竹刀を握って食いかかるように声を出して神田先生に向かっていった。









「一本とったじゃん、すごいね!」


道場生のみんなは弟を残しもうすでに帰っていた。

いるのは神田先生と、弟と私。

弟は先ほどまでどうすれば相手に勝てるかなど、神田先生に教えを請うていた。


「それまでに先生に何本もとられたけど。」


「先生とは年季が違うんだから当たり前じゃん。これからもっと強くなれ!」


そういってわしわしと少し汗ばむ髪をなでると弟はにししと笑った。

思春期真っ盛りで親には反抗したりするくせに、私にはこんなに素直に笑ってくれる。

それが嬉しくて私は弟がかわいくてかわいくて仕方ない。

弟と話していると神田先生がやってきた。


「あ、じゃあ姉ちゃん俺帰る支度してくる。」


「うん。」


軽く手をふって、神田先生に向き直る。

敬語を外そう、といってから約一ヶ月。

神田先生も私もすっかり敬語が外れた。


「神田先生、お疲れ様。」


「ああ。・・・あいつ、腕を上げたな。」


「あ、先生分かる?あの子ね、家の庭で素振りとかいろいろがんばってんの!!
朝早くからおきて最初は庭を少し掃除して、それから素振りやって・・・
もうひたむきにがんばってる姿とか、可愛くて!!姉として応援してやりたいって本当に思うんだよねぇ・・・・って、こんな長々話しちゃって、ごめんなさい。」


「ブラコンだな。」


「いやいや先生、私そんなんじゃないし!」


「はっ、弟溺愛してるくせに。」


「ぐ・・・」


そういわれると、私はブラコンなのかもしれないと思ってしまう。

いや、そうか。私はブラコンか。そういわれるとなんだかしっくりくるし。


「・・・・そう、だなぁ・・・・」


そういって、ため息を一つつけば、神田先生に鼻で笑われた。


「鼻で笑わなくても・・・」


「悪い。」


そういって先生はまた笑った。


「ところで。」


「ん?なに、先生。」


突然先生が話を転換させた。

私は首をかしげ先生を見る。

先生はごほんと一つ咳払いをして私を見つめた。


「ずっと言おうと思ってたが・・・俺に似ている小学校のときの女の子との話だが。」


「あぁ、あのユウちゃんの話?」


先生と似ている女の子。

先生が聞いてくるので一ヶ月の間に何度か先生にそのこについて話した。

たまにこうやって聞かれるのだが、なぜか今日は違った。


「その女だが・・・俺なんだ。」


「へ?」


私は耳を疑った。・・・・なんだって、あの綺麗で可愛いユウちゃんが、オトコ・・・?

しかも、先生だって・・・?


「ユウちゃんって女・・・小学校のときの俺だ。よく女と間違われてた。」


「え、えぇぇぇ!!!?」


突然の告白に私は驚愕した。

だって、そんなわけ、いくら女の子と間違えられてたからって私がずっと気づかないわけない、し!!


「だ、だってそれならすぐ気づくはず・・・」


「言うのが面倒で隠してた。」


「わ、わたしお別れするときほっぺにちゅーしちゃった!!」


「・・・・それは気にするな。確かあのとき俺からも・・・」


「はっ!!そういえばユウちゃんの苗字、ずっと忘れてたけど神田だ!!神田だった!
え、ほんとにほんとにユウちゃん!?」


「だから言ってるだろ、あのときの女は俺だ。」


私は先生に近寄って両頬を手で挟みこんだ。

じっくり見ると、あの切れ長の目や端正な顔立ちはまさにユウちゃんだった。

触れたことのあるさらさらで漆黒の髪は昔も今も変わらない質感で。

どうして今まで気づかなかったのか不思議なくらいだった。


「・・・・・・・・・まさか、本当にあのユウちゃんだなんて・・・・」


両頬を押さえていた手を下ろそうとしたら片手を頬に当てたまま抑えられた。

ドキリとする。

あのユウちゃんが、男でしかもこんなにかっこよくて色っぽくて。

合わさった視線がなぜか離すことができない。

吸い寄せられるような漆黒の瞳がだんだんと近づく。

お互いの微弱な吐息が絡まりあう。

それはある意味火傷しそうなほど熱く、そして何かを包み込むように温かく。

そしてお互いの熱が交じり合おうとして私が目を閉じかけたとき。


「姉ちゃん!!」


「「っ!!」」


ばっ、と私たちは瞬時に距離を取り合った。

頬が熱くなっていくのを感じる。


「帰る準備できたけど。」


「あ、うんオッケー。帰ろっか。じゃあ先生、さようなら。」


「先生さようなら。」


そういって私たちは帰った。

道場を出る前、先生を振り返ったら先生は少し熱っぽい視線でこちらを見つめていた。

私はそれにドキリとしてあわてて視線をそらす。

またじわりと頬が熱くなって、弟をせかしながら私は帰った。






(姉ちゃん、俺邪魔だった?)


(えっ!?な、なんのこと?)




perv next


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