エドワード君には、目をそらされることが多い。
「エドワード君の初恋って誰?」
「は、え……いないけど」
「いるのね」
「いないって!」
いるのか。私はエドワード君の目をじっとのぞき込む。この間アルフォンス君が言っていた幼馴染だろうか。
「……何」
じっと見つめられるのに耐えられず、エドワード君は目をそらす。
「わかりやすいよね。初恋の相手、いるんでしょ?」
「……あー、もう。いるよ。で、それが何」
「別に。聞いて反応を見てみようかと」
「はぁ?」
エドワード君がこちらを見る。で、目があったのに気が付いてまたそらす。
「君は視線に色香があるからね。目を合わせたらうっかり誘惑されてしまいそうだ」と冗談交じりにマスタング大佐が言っていたが、それのせいだろうか。自分が少し意地悪な性格をしているのは分かっているが、視線にそんなものがある自覚はない。強いて言えば、右目の下側にある泣きぼくろだろうか。
「エドワード君くらいの年頃の子って、恋愛のこと聞くと、大体初々しい反応してくれるのよね。からかいがいがあるのよ」
「……なまえ少尉、休憩は終わり」
エドワード君は呆れたように私の言葉を無視した。
「イエッサー」
実は今、エドワード君と私は、錬金術書を読み漁っている。私は国家錬金術師ほど錬金術の技能があるわけではないが、一般人以上には知識があるので、たまたま知人になったマスタング大佐から手伝ってやってくれ、とエドワード君のもとに寄越されたのだ。
私は本を読み、役に立ちそうな部分を探して後でエドワード君に伝える係である。
エドワード君は、本を見ながらぶつぶつつぶやいている。右手で本を支え、左手でめくっている。右手には手袋が付いていて、袖口からちらりと見える
感覚はないのだから、と私はそっとエドワード君の右手に手を伸ばした。手袋の上に、手を乗せてみる。エドワード君は本に没頭していて気が付かない。
なんの温かみもない、ただの金属だった。動いていないけれど、エドワード君についているだけで、ただの金属なはずなのに、少し命が伝わっているように思える。私はそのまま、その袖口から手を侵入させて、直接機械鎧を触ってみた。司令部外の手すりの金属みたいに、鋭いような冷たさは感じない。エドワード君自身の体温から熱を受けているのか、冷たいけれど鋭さは感じなかった。
「ちょっと、なまえ少尉」
「あれ、気づいてたの」
「気づくよ。何してんの」
「つい」
「ついって……」
エドワード君は呆れている。
「触りたいの?」
「え、そういうわけでは」
「じゃあ休憩は終わったんだからやることやってくれよ」
はぁ、とため息を吐くエドワード君。
「なんか、なまえ少尉って、俺より子供っぽいっていうか……いや、大人な雰囲気はするのに、なんかいたずらっ子みたいだな」
「子供相手にしてるんだから、私も子供にならないと」
「子ども扱いすんなよ!まったく……」
エドワード君はぶつぶつ文句を言う。すぐにその小さな声は錬金術の内容に変わっている。こういうところが、国家錬金術師になれた所以なのだろう。
でも、子供は子供だ。しかもエドワード君みたいにまっすぐな性格をしている子をからかうのは楽しい。
「なまえ少尉って、よく人のことからかってんの?」
次の休憩時間に、エドワード君からの質問。
私はちょっと考えてから、頭を振った。
「周りには、からかえる人はいないから」
「なんだよそれ」
「エドワード君みたいに軽口言えるほど仲いい人、なかなかいないもの」
「……」
「照れる要素あった?」
「ないよ!」
「でも顔赤いね」
あはは、と笑うとエドワード君は大きな音を立てて立ち上がった。
「ちょっと外の空気吸ってくる!」
「はーい、いってらっしゃい」
私はひらひらと手を振って、エドワード君を見送った。エドワード君は帰ってきたときにはなんてことないような顔をしていて、今度こそ私のからかいには負けないぞという気概を持っているみたいだったが、揺さぶるとあっけなくまたからかわれてくれたのだった。
*
隣の電話ボックスから見知った声が聞こえてきて、つい野次馬精神が働いた。
「ああ、わかってるよ、ちゃんと手入れするっつの。ああ、ああ……」
電話をかけているのはエドワード君である。相手がだれかはわからないが、電話の相手はある程度気心しれた相手なのだろう。
「これだから機械鎧オタクは……うるっせ!だからわかったって……」
どうやらエドワード君の機械鎧技師が電話相手のようだ。随分仲がよさそうだ。電話相手の声は聞こえてこないが、エドワード君がこんな感じで話せる相手がアルフォンス君意外にいるとは思わなかった。言葉では疎みつつも、声は優しい。
「……ああ。じゃあな、ウィンリィ」
しかしながら、最後に聞こえた名前に、私は固まった。女性の名前が聞こえたからだけじゃない。いつも無遠慮な感じで私の名前は呼ぶくせに、エドワード君が「ウィンリィ」と呼ぶその声は、大切な響きを宿していたからだ。
ドクリドクリと心臓が脈打ち始めていた。エドワード君に大切な女性がいるということを知って、私は衝撃が隠せなかった。
隣から受話器を置く音が聞こえたとき、私はとっさに目の前にある受話器を取った。それから電話に近づけるだけ近づき、エドワード君に気が付かれないよう、自分の存在を隠した。電話をかけているふりをしたのだ。
ふりだけで終わらせようと最初は思っていたが、私はマスタング大佐に電話をかけた。
「マスタング大佐ですか、なまえ・みょうじ少尉です。鋼の錬金術師殿のお手伝いは今週いっぱいまで、ということでしたが、区切りがついたので、明日から通常業務に戻らせていただきます。……彼に収穫はなかったようです。……それでは失礼いたします」
受話器を両手で置き、息を吐きながらそのまま受話器をつかんだままの手に向かって体をかがめる。
目をつむると、苦々しい思いととともに、以前親友だった女性から頬を叩かれたときのことが思い起こされた。あの時、確か彼女の相手は私より年下だった。今回も同じで、年下だ。
二度あることは三度ある。三度目の可能性をつぶすために、二度目から根絶させなければ。
*
私はエドワード君と縁を切ることに徹した。元々エドワード君には自分の所属を教えていなかったので、マスタング大佐などに聞く以外で私のことをエドワード君が探せるはずもない。まあ少し考えればわかってしまうようなところだが。
そもそも仲がいいと私は言ったが、わざわざ探してあう程の仲ではないので、エドワード君は私に会いに来ないだろう。手伝いは完全に区切りがついたわけではなかったが、あと少しで区切りがつきそうだったのは確かだし、私が手伝う必要はもうない。
今は司令部にいるが、エドワード君は自分で自分を「根無し草」だと言っていた。ということはこの司令部にいる時間はそれほど長くはないだろう。一度エドワード君がこの司令部をでていってしまえば、縁は完全に切れる。そして私が二度目の過ちを繰り返す可能性も完全になくなる。
「なまえ少尉じゃないか」
「マスタング大佐」
司令部の食堂で、マスタング大佐と偶然出会った。後ろにはホークアイ中尉が控えている。二人とも食事に来たらしい。大佐は「席はあいているかな」と聞いて私が頷いたのを確認してから二人で私の向かいに腰かけた。
「なぜか、鋼のが驚いていたよ。君が急に手伝いに来なくなったといって」
なぜかな?と大佐は目で訴えていた。
「きちんと明日から来ませんと、申したつもりだったのですが。鋼の錬金術師殿が本を読んでいる時に声をかけた感じに等しかったので、聞こえていなかったのかもしれません。」
嘘八百もいいところだ。しかしエドワード君の集中力は並ではないので納得のいく話だ。
「そうか。それにしても、鋼のの残念ぶりは甚だしかった。なあ中尉」
「そうですね。エドワード君にもう一度あいさつに行ってはどうかしら」
「そうします」
私はするつもりなどなかったが平然と頷いた。
エドワード君が大佐に何かを言いに行ったのなら、もう一度何かをいうことはないだろうと思われた。エドワード君は私が突然いなくなったことを疑問に思えど、たかが一士官のことなどをわざわざ騒ぎ立てるような人ではない。
きっとあいさつに行かなくてもマスタング大佐にはばれないだろう。
大佐と食堂で偶然一緒になったちょうど一週間後、また大佐と中尉と食事の席を共にすることになった。
「どうだったかね、鋼のは」
お互いの共通の話題としては、エドワード君意外にもいろいろとあるはずなのに、一週間前と今日と、私たちの話題はエドワード君、一辺倒だった。
私はここでようやく、マスタング大佐もホークアイ中尉も、私とエドワード君の間に何かあったのだと心配していることに気が付いた。
考えてみれば二人が一緒に食事に来るなど、不思議以外の何ものでも無かったのだ。普通、個々人で仕事の区切りは違うはずなのだ。それをわざわざ合わせてまで食事をとっているのだから。
しかしそこまでするほど、大佐と中尉はエドワード君を心配しているということだろうか。
「きちんとあいさつをさせていただきました」
とりあえず、二人がどこまで事情を知っているのか探ろうと、嘘を言ってみた。
「……そうか、それはよかった」
マスタング大佐の口元は少しへの字に歪んだ。あいさつをしていないことを知っている顔だ。隣の中尉は黙々と昼食を食べていたが、ナイフとフォークを置いて、顔を上げた。
「実は、みょうじ少尉、あなたがエドワード君にあいさつをしていないこと、私たちは知っているのよ」
「はい」
私の淡々とした返事に、大佐も中尉も顔を見合わせていた。
「どうしてなのか、聞いてもいいかしら」
「……個人的なことですので」
私は言外に言えないとほのめかし、昼食を一口、咀嚼した。
この二人はとてもエドワード君を心配している。もしかして、彼はひどいのだろうか。「残念ぶりが甚だしかった」というのは、ただ残念がっていただけではなくて、落ち込むほどなのだろうか。そうだとして、そこまでになる原因が、私にあるというのか。
「失礼に値するのは承知しています。ですがたかが私があいさつに来なかった程度で、鋼の錬金術師殿に何か不都合が起こっているのでしょうか」
私の質問に、両者とも頷いた。
「実は弟のアルフォンス君から、頼まれたことなのよ」
ホークアイ中尉が説明した。
どうやら私が急に姿を現さなくなったことでエドワード君は日に日に元気をなくし、ついには、「俺、嫌われたのかな……」と漏らすほどであるとか。アルフォンス君が心配して、どうにか私にエドワード君と何かあったなら解決してくれるよう頼んでくれ、と大佐と中尉に頼んだらしい。
まさかここまで話が大きくなるとは思っておらず、私は話を聞きながら驚いていた。エドワード君は、人間関係など、大して気にせず前進する人だと思っていた。
「そこまで、落ち込むほど彼が繊細とは知りませんでした。本日の終業後にあいさつに伺います」
「繊細、ね……君はてっきり色恋に関して手練れだと思っていたが、そうではなかったなんて知らなかったよ」
大佐が意味深なことを言ったとき、ちょうど昼食を終えて去っていった。
*
「エドワード君が落ち込んでいると聞いて、あいさつに来ました」
教えられた町のホテルを訪ねると、最初に向かえたのはアルフォンス君だった。
「兄さん呼んできます」
アルフォンス君がそういって奥に消えると、エドワード君の叫び声がすぐに聞こえ、それからドアの前にエドワード君が瞬時にやってきた。
「なまえ少尉、来てくれたんだ」
体の勢いとは正反対に、エドワード君の声は落ち着いたものだった。
「エドワード君、あいさつもなしに、急に手伝いをやめて、迷惑をかけてごめんなさい」
私は開口一番に謝った。エドワード君は首をふる。
「いや、いいよ。こうやってあいさつに来てくれたし。それで、さ、ちょっと話せる?」
「ええ」
エドワード君は、アルフォンス君に、外出する旨を伝えて、私と一緒に夕方の町へ繰り出した。
私たちは歩きながら話すことになった。
「それで、どうして急にこなくなったの」
「あと少しで区切りが付きそうだったでしょ?だからもう私は手伝わなくてもいいと思って。マスタング大佐が私の仕事にいろいろと便宜を図ってくれたから、手伝っている間は通常の業務はしなくてよかったけど、他の人に申し訳なかったから、早くもどろうとおもって」
「でも、何も急にいなくならなくったって」
「そうね。そこはごめんなさい」
私は素直に謝った。
エドワード君は釈然としないようである。
「俺、なんかした?」
「え?」
「いや、急にいなくなるなんて、普通じゃないだろ。だから原因は俺かと思ってた」
「何もしてないよ」
「それじゃあなんかあった?」
「いや、そういうわけでも……自分でも、急に魔が差したっていう感じで。だから本当にごめんなさい」
「何もないなら、いいんだけどさ……」
エドワード君は口をとんがらせた。
私はエドワード君を納得させ、彼と当たり障りなく縁を切れる言葉を探していて、ようやくそれを見つけた。
「実はねエドワード君、私彼氏ができたの」
「……え」
「あんまり話すと、心配かけるかなって思って言わなかったけど、彼氏が嫉妬深いから、なるべく他の人と仲良くするのはやめようと思って」
「そう、だったんだ……」
「だから急に手伝うのやめたのよ。私の彼氏はもちろんいい人だけど、嫉妬深いから気を付けないといけなくて」
そこまでいうと、やっとエドワード君は納得したようだった。
そうして私はエドワード君への「あいさつ」をきちんと終えた。
*
「なまえ少尉、君、彼氏がいたのか」
「え?いませんよ」
「え?」
「あ」
翌日、マスタング大佐から呼び出しを食らって、しかも二人きりで話をしたいと言われ、一体何事かと思ったらそんなことを聞かれた。
全く持って、拍子抜けな質問で、思わず正直に答えていた。
「それならなぜ、鋼のにそういったんだ」
「いえ、あの、それは……」
私は言葉を詰まらせた。
心の中では疑問だった。個人間のことなのに、どうして勤務時間内に取沙汰されねばならないのか。それほどまでに重要なことなのか、と。
ここまで心配され、周囲に迷惑がかかるとは思っておらず、私は頭を抱えたくなった。
このとき、ついに私は面倒になってすべての事情を打ち明けることになったのである。
「……えーと、つまりこういうわけか?たまたま鋼のの電話を聞いて、鋼のには大切な女性がいることを知り、その女性を傷つけないために鋼のとの関わりを一切やめ、我々に言われたから鋼のにきちんと謝罪に行った。そして鋼のと一切かかわらないために、嫉妬深い彼氏がいるという嘘をついた、と。そうした原因が、過去に親友の彼氏を意図せず奪う結果になったからだったと」
「以前、大佐がおっしゃってらしたようになぜか私は『視線に色香』があり人を『誘惑して』しまうようで。親友の彼氏と交際したわけではありませんが、奪うようなことをしてしまいました。結果、親友を傷つけ失ってしまいました。二度とこういうことのないようにと、自省したつもりだったのですが……ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
大佐がため息をついて後頭部をかいた。
「いや……特に、迷惑というわけではないが……この事情、私から鋼のに伝えておこうか?」
「なぜですか?彼と、これからも関わっていけという命令でしょうか」
「……」
大佐がぽかん、と口を開けてしまった。
私は大佐がエドワード君と一切関わらないつもりなのを分かってくれたのだと思ったが、少し違うようだ。
「……中尉を呼んできてくれるか」
大佐が急にホークアイ中尉を求めたので、私は理由がわからなかったがすぐに中尉をよんだ。
呼ばれた中尉は、大佐から事情を聴いて、大佐を部屋から退出させた。こんどは中尉と二人っきりである。大佐は中尉にバトンタッチしたようだ。何をか、というのははっきりとは分かっていない。そもそも私はなぜ大佐に呼ばれ、エドワード君との関係に関して仲介されているのか。関わらないようにするきちんとした理由を話したにも関わらず、なぜまだ何か説得するような雰囲気になっているのか、よくわからない。
「あの、質問してもよろしいですか」
「ええ」
ホークアイ中尉がどう話し始めようか少し迷っている風だったので、私から質問した。
「なぜ、勤務時間内にこのような私的な話をしているのでしょうか。それと、大佐と中尉が私の鋼の錬金術師殿に対する態度を改めさせようとしているのはなぜでしょうか。わざわざ勤務時間内にするような話ではないし、それほど重要なことだと思えません」
ホークアイ中尉は私の言葉に驚いていた。大佐と反応が同じである。しかし途方に暮れた様子ではなく、少しの間のあと、すぐに説明してくれた。
「確かに勤務時間内にするような話ではないわね。私たちが勤務時間内にあなたを呼んだのは、私たちが終業後に約束をするような間柄ではないし、誰が聞いているかもわからない食堂だとあなたが気兼ねなく話せないのではないかと思ったからよ」
「……はあ」
確かに一理ある。二人きりでなければ私は、過去に親友の彼氏を奪ったなんて話はできなかっただろう。
「それと、もうはっきりと言うけれど、エドワード君の大切な女性はあなたよ」
「え?」
まさか、という思いが最初に沸き起こった。それから次に、自分が二度目の過ちを犯してしまった事実が突き付けられ、愕然とした。私はまた、傷つけてしまったのだ。今度はあったこともない、しかもエドワード君はこれから何度も会わなければならない機械鎧技師の女性を。
顔を青ざめさせた私に、中尉がフォローを入れる。
「あなたが言っているのはウィンリィちゃんのことでしょう。彼女はエドワード君の幼馴染だから、エドワード君が大切に思っているのは当たり前だと思うわ。だから気に病む必要はないのよ」
と言われても。幼馴染だからエドワード君と恋仲ではないなんて保証はない。そもそも幼馴染なら容易に恋仲になっていそうなものだ。
「エドワード君はウィンリィちゃんとは恋人同士ではないわよ」
私の心中が読めたのか、中尉がきちんと補足した。
私はようやく落ち着くことができた。
「今エドワード君はひどく落ち込んでいるそうよ」
中尉は続けた。確かに、好きな女性(私のことだが)に彼氏がいると知れば、失恋したと思って落ち込んでしまうに違いない。
「事情は、私のほうからエドワード君に話しておくから、そしたらこれまで通りエドワード君と接してあげてちょうだい。これ以上はとやかく言わないわ」
これまで通りエドワード君と接すればいい、と言われてほっとしている自分がいた。
今までエドワード君が15歳だからと恋愛対象に見ていなかったから、正直エドワード君の気持ちを聞いても全くと言っていいほどどうしていいかわからなかったのだ。
「ありがとうございます」
そのとき私は、ふとした疑問が思い浮かんで、中尉に尋ねた。
「あの、大佐と中尉はなぜここまでしてくださるんでしょうか。鋼の殿が心配だからですか?」
「最初は大佐がエドワード君とあなたの恋愛を面白がってからかってやりたかったからだけど、あなたが鈍感だって知って、エドワード君がかわいそうになったからね」
「ご迷惑をおかけしました……」
ただただ、そういうしかなかった。
今後は人の気持ちを気にかける努力をしようと思ったのであった。
*
それから紆余曲折あった。
中尉から事情をきいたエドワード君が飛んできて、すぐに告白を受けた。
私は戸惑いつつも、正直に、エドワード君のことをまだ恋愛対象に見れないから、といって断った。エドワード君はショックを受けたようだったが、恋愛対象に見てもらえるよう努力する、と宣言して、旅立っていった。
きっとエドワード君は会う頻度の高いウィンリィちゃんを好きになっていくだろう、だって幼馴染なのだから、と私はそのとき高をくくっていたのだが、それから一年半後、背がぐんと伸びて子供とは呼べないほど男らしくなったエドワード君が、会いに来た。
そのとき不覚にも恋に落ちた私は、エドワード君の二度目の告白を受け入れた。
一度エドワード君は遠くへと旅立っていったが、また二年後帰ってきてくれ、私たちは今一緒に生活をしている。
「なまえさん」
軍属ではなくなったエドワード君は、私をそう呼ぶ。呼ばれて視線を向けると、
「なまえさんの視線ってやっぱり毒」
エドワード君はそういって、私にキスをする。外で人目をはばからずするときもあって、最初は恥ずかしかった。何度も止めたがエドワード君が周りに牽制するためだといって聞かなかったのが懐かしい。
エドワード君の好意の表し方はストレートだ。私としては恥ずかしいのだが、エドワード君からするとこうでもしないと分かってくれないらしい。気を付けるようにしているのだがまだまだ足りないようだ。
「なまえさん、大好き。愛してる」
今まで幾度となく聞いてきた言葉だが、聞くたびに私は嬉しいし心拍数があがる。
「私も、大好きだよ」
顔中のキスの雨を受けながらそう返すと、エドワード君はとても嬉しがる。私は好意を頻繁に口に出さないからだ。
一度キスの嵐がやんでしまったので、私のほうからエドワード君にキスをする。エドワード君はにやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
「足りなかった?」
「え、そういうんじゃ、」
「なまえさんがキスしてくれるときって、いつも物足りなそうにしてるからね」
「うそ!」
「本当」
エドワード君の笑みは意地悪さを深める。
最近ではエドワード君が大人の余裕というものを身に着けだして、私をころころ転がすことが多くなった。悔しい。
「安心して、ちゃんと満足させてあげるから」
「前はもっと初心だったのに……わっ!」
嘆きは、急に抱きかかえられたことでかき消えた。
「な、なにを」
「なまえさん、ベッドのほうが好きだろ?」
「なっ」
顔を赤らめる私をみてエドワード君は愉快そうだ。私はベッドへ連れていかれ下ろされた。
「言っただろ、ちゃんと満足させるって」
ベッドで私に覆いかぶさりながら言うエドワード君の表情は、出会った当初はなかった色香がある。
今や私がエドワード君にからかわれ、翻弄される立場になってしまった。
悔しいけれど、愛おしくもある。
「じゃあ、思う存分満足させて」
顔を赤らめたまま強気を演じて言ってみる。たまにエドワード君のほうが赤面してくれるのだけれど、今回はそうさせるほど私は一枚上手ではなかったようだ。
「了解」
余裕のある笑みで額にキスをされ、エドワード君から愛を受け取る私であった。
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