ちゅ、と彼の首元に吸い付く。
一回目、愛しさを込めて。
二回目、甘えたように。
三回目、独占欲を込めて。
四回目、誘惑するように。
私がどう思いながら口付けているなんて、あなたにはわからないんでしょうけれど、と思いつつ私は彼の胸板に頬を寄せた。
彼の開いた股の間に腰を落ち着け、彼の上体にもたれかかって、私は彼が新聞を読む邪魔をこのようにしていた。
ブックマンと部屋を共有しているラビはいつもは自室で読み物をする。ブックマン後継者としての務めのために。だから私の部屋に来るときは、その務めから解放された時間をすごすのが常であった。
しかし今日は違って、彼は新聞を読んでいた。
「なまえ、くすぐったいさ。」
首筋への口付けをくすぐったいの一言で済まされて、私は少しがっかりした。口づけで全てが伝わるとは思っていないけれど、それでも少なからず私の誘いを感じてはくれまいかと期待していたのだ。
「することないから。」
「じゃあ一緒に新聞読む?」
「今はそんな気分じゃない。」
自分の彼氏を奪っている新聞など、と私は新聞を見すらしなかった。
ラビがブックマン後継者であることも彼の務めが重要なことも、十分理解しているつもりだ。だから邪魔といっても本当にしたいわけではない。ラビがいったん休憩したいと思った時に、私がいることを示したかっただけだ。しかし私はもちろんこのことも知っている。ラビは一度新聞を読みだすと、全て読み終えるまで止まらないこと。
要するに、私はじっと、彼のそばで待っているしかない。
つまらなさと彼のぬくもりから、少し眠気を感じて欠伸がでた。
「眠いんさ?」
ラビの問いかけにこくりとうなずく。
「ねえ、それ読み終わったら起こして?」
「わかったさ。」
私はゆるりと目を閉じた。片耳から聞こえてくるゆったりとしたラビの拍動が、心地よくて、すぐに私を眠らせた。
*
は、と知らぬ間に熱い吐息が漏れる。胸を触られる快感に連動した下腹部の甘い痺れにうっすらと目を開ける。少し上を見上げると、少し火照ったラビの顔があった。
「んっ・・・な、なんで?」
まさか寝ている間にこんなことをされると思わず、つい理由を問いかける。
ラビは、片方の腕は私の腰に、もう片方の腕は私の服の中に入れて私の胸を弄っていた。私が寝始めたときと同じ体制のままである。
「これで我慢できたら男じゃないさ。」
ほら、と言ってラビが視線を落とした先は、私の胸元。今日は胸元がゆったりとした服を着ていたせいで、胸元が丸見えだった。
「それに、寝る前、熱烈なお誘いを四回も受けちゃったしな。」
「よんかい・・・?」
ラビは私の胸を弄りながら愉快そうに話す。私はそんな熱烈に誘った覚えがなくて首を振る。
「私、誘ってない。」
突然、きゅ、と胸の頂をつままれて、私はびくりと体を震わせた。
「覚えてないんさ?」
じわじわと刺激を強めていくラビに応えたかったが、口を開けば声が漏れそうで、何も言わず私は首を振った。
「首へのキス。意味は『欲望』。」
ラビが私に教える声は、囁き声で、いけないことを話している感覚になる。私の体に火が付く。
「思い出したさ?」
ラビがにやりと意地悪に笑う。私は、私がキスの意味など知らないことをラビは分かっているのだと悟った。
「っ、知らなか、たのに。」
ラビの刺激に耐えながら話す。ラビは私が耐えている様子を楽しんでいるみたいだ。
「じゃあ、こういうの嫌さね?」
ラビは、今まで続いていた刺激をぱっと止めた。私が先ほどまでの会話で完全に火が付いたと知っていての行動である。
「嫌じゃないから・・・」
私はそう言って、ラビの服をつかんだ。彼を見上げると、すぐ目の前に彼の顔があったので、そのまま唇に吸い付く。少し身をよじった時に当たった彼の下肢は思いの外、熱を帯びていた。私を弄っている間、本当はずっと我慢していたのであろう。
彼は私を勢いよくベッドへ押し倒した。先ほどまでぼんやりとした温さに体が包まれていたのが急になくなって、私は寒さでぶるりと震えた。ラビに包まれていないと、こんなにも寒いなんて。
「さむい、ラビ。」
私は腕を組んで寒いとアピールをした。しかしラビは無慈悲にも私が組んだ腕を外して、さらには服を脱がしにかかる。
「ね、ラビ、寒いから、今日はあんま脱がさないで・・・?」
私はラビにそう頼んだ。抱きしめて、といって一時的に彼に抱きしめてもらう。そうしている間にもラビは服の上から私のブラのホックを外したり、私が履いているズボンのベルトを緩めたりする。隙間から冷たい空気が入り込んでくる。
ラビはズボンの隙間から手を差し込んで、下着越しに私の下肢を撫でた。びくりと今度は寒さのせいではなく震える。
「大丈夫さ。」
私の耳元で一言。ぞくり、と耳が受け取った快感が下腹部に響く。ラビは私にひっついて暖を取ってくれたまま、刺激を強めていく。刺激が与えられるたびに、声が漏れそうだ。ラビはもっと声を聞かせてというけど、私はそれが恥ずかしいのでいつも口に手を当てて我慢する。じわり、と自分の中から蜜が溢れる感触がした。ラビが少し顔を離して私の目を覗き込む。
「気持ちいんさね。」
私が快感を得ていることを確認するような口調と、愉快そうな笑顔を浮かべられて、すぐに、かあっと顔が熱くなった。
「ほら、やっぱり大丈夫さ。」
「何・・・?」
「寒いの。だってなまえの顔赤いさ。」
「これは、ちが、あっ。」
私が口を開いた時を狙って、ラビが刺激を与えた。私は声が抑えられなくてつい声をこぼす。
「なんにせよ、どうせこれから暑くなるさ。」
覚悟して?と言いながら、下着の中に侵入してきたラビの手は、私の体より暑かった。