▽ 訓練1
娟は自分を恥じた。
今まで訓練という訓練を一切していないのだから誰かの役に立てるはずなどなかったのに、娟は努力をせず任務で役に立とうとしていたのだ。
リナリーも神田も、エクソシストはほとんどが毎日のように鍛練している。体力気力ともに十分養って万全の状態で任務へ向かっている。
誰も娟にそのことを指摘しなかった。唯一、さりげなく、とてもやんわりとではあったが指摘してくれたのはティエドールだけだ。神田は娟を叱責するが、娟から意志を見せなければアドバイスをしてくれるようなことはなかった。
要するに、娟はただ助けられるのを待っていただけに等しい。自分からはなにもせず、相手にばかり頼っていた。
「娟、まずは私と同じ動きをして、基本的な動きを身に付けましょう」
リナリーとの組手初日。
なにもできない初心者の娟にリナリーが優しく教え始める。
リナリーが娟に一度お手本で拳を前につきだして見せる。娟は見よう見まねでゆっくりと拳を前に出した。
「思いきってやってみてね。あ、ちなみにね、拳はこうやって握った方がいいわ」
リナリーがそっと手を娟に添えて、ガチガチに固まった娟の手を開き、拳を握り直させる。先程まで人差し指の上にのせていた親指が中指の上辺りに移動していた。
「ありがとう」
娟のお礼に笑みを見せて、リナリーはさらに指導を進める。
「肩の力も抜いて。そう、それから、足もすこし開きましょう」
こうして、姿勢を整えてから娟は慣れるまでリナリーに教えてもらった姿勢で慣れるまで拳を前につきだし続ける動作を続けた。
その日はその動作に慣れるのに一日かかって、訓練はお開きとなった。
「娟はちょっと体力がないから、体力をこれからつけていこうね」
娟が終わり際になにか他にできることはないかとリナリーにアドバイスを求めると、リナリーは優しく答えた。
娟はアドバイスを受けて、体力をつけれるように翌日からランニングを始め出した。
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