cold body/hot heart | ナノ

▽ 訓練2


リナリーとの稽古が終わると、その翌日は神田とイノセンスを使った実践的な練習が始まる。
リナリーとは違い、神田は基本的に詳しく説明するということがない。相手の動きを見て、自分で判断した動きをして、どの動きが有効で、または無効であるかを体に覚えさせていく。神田は娟の動きが体に負担をかけるやり方のときだけ指摘する。

今日は二回目の練習である。前回は神田は竹刀を持ってイノセンスを使う娟と練習をした。
練習は、近くに敵が接近したときの防御をしている。娟は何度本気で氷を飛ばしても、神田はすぐに見切って避けたり弾いたりした。遠距離型の娟に有利になるよう、最初は二人ともかなりの距離を開けているのだが、それでも神田はものの数秒で娟と距離を縮めて、娟に竹刀を突きつける。

「遅い」

これはもはや神田の口癖で、娟は言われる度に自分が鈍重であるのを自覚させられる。

「切り込まれそうになったら、薄くてもいい、壁を作れ」

「う、うすいと、突破されちゃいますよ……?」

「少しでも勢いを緩めろってことだ。突破されて怪我を負うのは覚悟しとけ」

神田が竹刀を突きつけるときでさえ娟は痛みを想像して、実際には突かれてもいないくせに痛いと思ってしまうのに、覚悟などできるわけがなかった。その恐れが娟を萎縮させていると娟自身、わかっているが克服できない。
神田は、咄嗟に防御をできるようになるために、ギリギリまで壁を作ってはいけないことにしていた。娟の5メートルほど前にテープがあって、そこを神田が越えたら防壁をつくっていい。それもあって、娟は焦ってしまう。

「これまで戦ってきたAKUMAのことは忘れろ。あいつらはどんくさい。これからは、俺の竹刀を止められなきゃやってけねえぞ」

神田は竹刀を下ろすと、また娟から距離をとりはじめる。なんども、繰り返し遠くから始めてはその度にひとつかふたつ神田から指摘を受ける。これを延々と繰り返すのだ。同じことを何度も行い、ひとつを極めるのだという。
単調で面白味もなく、疲弊だけが募っていくような訓練だった。それでも、当初の自分の目的に立ち返って娟は頑張り続けた。訓練に付き合ってくれる神田のためにも早く習得しようとしている。ただ、娟は要領が悪いのかまだ一度も成功したことはない。

「そうだ」

遠くにたどり着いた神田が、思い付いたように声をあげた。

「次から、防御できなかったら軽く肩に衝撃を与える。覚悟しとけよ」

「えっ!?」

急に神田が、打撃を加えると宣言した。これまでは寸止めで終わっていたのに、急なことに娟は驚き、恐怖した。

「いくぞ」

「ま、まって」

娟の制止を無視して、神田は突撃を始めた。
一拍遅れて娟は応戦した。少しでも神田のスピードを緩めるためだ。スピードは緩まるが、緩まったとはいっても微々たるもので、娟はこれまで以上に焦った。
神田は刻一刻と迫ってくる。5メートルラインまであと数歩だ。
ほとんど一秒で5メートルラインに差し掛かった。娟は神田に言われた通り、薄い防壁を作り上げる。これまでは厚く、正面の狭い面積しかできなかったが薄い分、広く出来上がる。娟が両手一杯に広げられるほどだ。
神田は薄い壁の向こうに透けた娟を一瞥すると、瞬時に目の前から消えた。後ろへ回り込まれる。
娟が振り返ったときには、神田が竹刀を振り上げようとしていた。
とっさに娟は目をつぶり、もう一度氷で身を守ろうとした。神田の竹刀が振り下ろされる瞬間に、上にだけ、膜のように薄い氷を生み出す。
氷はすぐに壊されたが、一度神田の竹刀も弾かれた。イノセンスが宿る氷だったお陰だろう。
もう一度神田が竹刀を振り上げる。娟はまた上に氷の膜を張った。
すると神田は、竹刀の向きを変え、横からの構えに移る。

「っっっ!!」

「肩を打つって言ったくせに!!」娟はぎゅっと目をつぶり心のなかでそう叫びながらとっさに氷を作った。
パァァン!と、竹刀が当たる音がした。

「…………?」

しかしいつまでたっても衝撃が来ないので、娟はうっすらと目を開けてみた。

「やっと成功したか。のろま」

目を開けると、神田が竹刀を肩にかついで娟を見下ろしていた。

「せ、せいこう……?」

「お前の胴を俺は狙った。お前は、ピンポイントでそれをしのいだ。まだそこに浮かんでる氷が証拠だ」

言われて見ると、自分の真横に氷が浮かんでいる。厚さ4センチというところか。意外と厚めで広さは大体手のひら程度だ。しかししっかりとガードしたと神田はいう。

「次からはどんどんお前の体に竹刀を当てていくから、覚悟しておけよ」

そういいながら神田はまた距離を開け始めた。娟は神田の後ろ姿を見ながら、一度目の成功が嬉しくて、胸の前で手をぎゅっと合わせて感動していた。

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