cold body/hot heart | ナノ


▽ 笑顔1


アルトの恋慕を知っても、娟とアルトの関係は統括的に見れば変わることはなかった。
言葉というのは、口に出すと効力を持ち始めるようだった。近い存在でいたいと言ったアルトの言葉が実行に移され、好きだという言葉が現れなかったことで二人の関係に決定的な亀裂が入らなかった。二人はそれを知っていて、口に出さないことで、絶妙なバランスを保っているのである。
それは決して、薄氷の上のような危ういバランスではなく、いたって安定したものだった。
以前兄妹として信頼しあっていた二人の姿が戻った。

娟は詳細は隠してとにかくうまく言ったという旨を後日、リナリーに報告した。

「私の力になってくれて、ありがとう」

努めてハキハキと娟は言った。それでも、今まで鍛えてこなかった声は大きくなることはなかったが、十分リナリーからすれば変化だったようで、リナリーは嬉しそうにしている。

「娟がこんなに頼もしくなるなんて」

娟は自分自身が頼もしくなったとは見ていない。むしろ不安だった。
アルトの苦しみを和らげよう、という決意はアルトからの自立宣言と同じだった。今まで頼りきって、依存していた存在から自立するというのは不安でしかない。親離れならぬ弟離れ。
それでも、必要なことだ。
いずれ慣れるだろうと楽観的に娟は考えることにしている。

「私、これから頑張る」

娟は自分の意志を口に出した。
頑張る。とにかく頑張る。娟はアルトのおかげで、不安ではあっても自分の力を発揮してがんばるつもりなのだ。
アルトもリナリーも、娟を大切に思ってくれる初めての仲間を自分も大切にするために。
娟にとって喜ばしい変化だった。

もう一つ、喜ばしいことがあった。

「大分待たせてしまってごめんね。中央庁との協議の結果、君たちの安全は保障されたよ」

娟が鴉によって襲われかけた事件がようやく決着がついた。
中央庁の見解は、こうだった。
イノセンスの力を分けると短命になってしまうことを考慮して、"質の悪い"エクソシストを量産し"質の良い"エクソシストを失うわけにはいかない。アルトとたとえ近親相姦で子を成したとしても純粋なイノセンスの力を持つ娟が命を落としては元も子もない。だから娟は自然と自身の分身を産むだけで良しとする。
アルトに関しては、人権を考慮して、将来配偶者を見つけ子供をなすことを義務付けるが、強制はしないものとする。
ただし科学班は娟のクローンを作る研究を進め、娟はこれに協力する。

中央庁の言葉には温かみの欠片もなかったが、もう安全だということがはっきりしただけでもよかった。
何もかもうまく回り出して娟は気持ちが良かった。

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