▽ 雪女1
「やーい、雪女、雪女!」
「こら、何やってるの!今すぐ離れなさい!」
雪が積もり、また、娟にとってのシーズンがやって来た。
この時期は娟にとって一番過ごしやすい気温となる。村人にとっては一番警戒すべき季節だ。
娟は雪玉を子供に当てられ、そしてその母親からは冷たい瞳で睨まれた。
「・・・・」
娟は丁寧に母親にお辞儀した。母親は鼻を鳴らすと子供を引きずるように連れて去っていく。これが娟からすれば親子というものの定番パターンだ。
村人から嫌われる娟だったが、そんな娟にも例外があった。
「娟ーー!」
娟と同い年の男の子、アルトだ。村長一家の親戚に当たる彼は、雪女一家の娟たちとの橋渡し役だった。アルトは氷のように冷たい娟を気味悪がずに至って普通に接する。
「村長様が、今年の雪像の図案を娟にって。これ。」
アルトが差し出した紙を受け取り、娟はじっとそれを見つめた。
この村では秋頃からつもり始める雪は、冬の暦に入ると猛威を振るうかのような厚さになってくる。おかげで雪かきは苦労が多い。しかしそれを楽しいものに変えようという試みが、アルトが持ってきた図案には詰まっていた。娟の曾祖母の代からある試みは今では村の伝統行事である。それぞれの家で雪像を作り、出来栄えを競うのだ。娟は毎年、競争には参加せず、行事が行われる日には村を飾り付ける役割を請け負っていた。世帯数の少ない村であるため出来上がる像の数も少ないからだ。
「・・・ありがとう。」
「うん、じゃあよろしくね。」
娟が小さく頷いたのを確認すると、アルトは元気に笑顔を見せて、「バイバイ!」と言って走っていった。
アルトの後ろ姿が見えなくなってから、娟はさっそく雪像づくりを始めた。
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