cold body/hot heart | ナノ

▽ 雪女2


娟の家族は代々雪女だった。

氷のように冷たい肌。
白銀の髪。
青い唇。
金色の瞳。
釣り上がった目尻。

これが雪女の姿だ。
東洋の国からやって来たと伝えられる雪女たちは東洋人特有の美貌と巧みな言葉で男たちをたらしこんだ。子孫を繁栄し、東洋の魔術を操った。忌み嫌われる存在として村人からは煙たがられたが彼女らの持つ知識と東洋の魔術は村を栄えさせた。
彼女らの水を操る力は強力だった。しかしそれをはるかに上回ったのが娟だ。

「水さん、お願いします。」

娟は、頭の中で先ほどもらったばかりの図案を思い浮かべた。息をゆっくりと吸い、力を徐々に発動させる。この方法が一番体力を消耗せず、さらに己の力が高まる。
雪となった水たちは彼女の意識と呼応するように舞い上がっていく。舞い上がった雪たちはひとつのところへと集まって凝縮し図案通りの形に固まった。
イメージ通りに出来たことに満足した娟は、それから一気に五体雪像を作り上げた。
どれだけ強力な力を持つ雪女でもこのようなことはできない。せいぜい、二体が限度だ。
それが娟の強みであり、コンプレックスである。

「いつ見ても、綺麗だね。」

「・・・アルト。」

一人なはずだと思っていた娟は、少しだけ驚いて振り返った。そしてアルトの後ろには一人の男が立っている。娟はさらに驚いた。その男の顔は娟と同じアジア系だったからだ。

「・・・」

彼女はアルトを見つめた。余所者を連れてきたアルトに対して嫌悪感が生じる。

「・・・この人が、娟に用があるって。ヴァチカンの黒の教団の人らしくて、村長様も仕方なく入れたんだ。」

「神田だ。」

男は短く自己紹介をした。日本人のような名前をしている。黒ずくめで、自分とは正反対だと娟は思った。

「・・・・」

娟は、無言でお辞儀した。
声を発すれば男を自分に引きつけてしまう。雪女の声にも実は力が宿っているのだ。この声の力も、雪女が男をたらしこめる理由の一つだ。アルトのように長年一緒にいる人間でもなるべく声を発しないようにしているのだ。最近やっと耐性がついてきたけれど、アルトでさえまだ危ないというのに。耐性のない人間が声を聞けばどうなるかなど容易に想像できる。

「娟は、あんまり喋らないんです。なるべく、"はい"か"いいえ"で答えられるように話しかけてください。」

すかさずアルトが助けてくれて娟は胸をなでおろした。
娟は、アルトのもとまで行き、身振り手振りで神田という男を家まで連れていこうと伝えた。

「ああ、そうだね。・・・神田さん、娟の家までどうぞ。」

神田は頷いて、アルトの後を追った。娟は神田から睨まれている気がしてアルトの袖をそっと掴んだ。

「大丈夫だよ。悪い人じゃなさそうだし。」

アルトがそう言って、にこりと笑うと娟は理由もなく安心して頷くことができた。

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