cold body/hot heart | ナノ


▽ 回復1


「やあやあ、よかったよかった!目が覚めたんだね!」

ベレー帽をかぶり、めがねをかけた賢そうな人が娟の目の前にいる。

「僕はコムイ・リーといって、黒の教団の室長なんだ。よろしく。」

3メートルほど離れて行われた挨拶は和やかなものだった。彼女は間の抜けた表情をしながらも軽く頭を下げる。

『よろしくお願いします。』

彼女は神田に渡された書くものに自分の言いたい言葉を書き付けた。提示すると同時に軽く笑んでみる。笑顔になると筋肉が少し引きつった。

「目が覚めたばっかりで申し訳ないんだけど、まずは君のイノセンスの制御をしたいんだ。これをつけてみてくれないかい?」

コムイと名乗った彼はそう言って娟にきらりと光るものを出した。
彼女はその光るものをみて首を傾げた。その光るものは青色の小さな輪っかだった。二つある。これを、どうするというのだろう。

「これ、イヤリングなんだ。常につけておくために用意したんだよ。」

『イヤリングってなんですか?』

まさか聞かれるとは思っていなかったのだろう。コムイはきょとんとした後に説明をした。

「普通は耳を着飾るためのものなんだ。耳たぶに穴を開けて通すものなんだよ。」

「!?」

娟はコムイの簡単な説明に耳を疑った。耳たぶに穴を開けることを想像してしまったからだった。顔から血の気が失せていく。

『耳たぶに穴なんて開けれません!』

彼女は即座に言葉を書いてコムイに見せた。彼女のそうした反応はある程度コムイも予想していたようでにこりと優しげな笑みを向けられた。しかし彼女にはその笑顔が企んでいるようにも見えた。いつもアルトが娟に見せてくれる優しげな笑みとは少し違った笑みだった。

「大丈夫、全然痛くないんだ。」

安心して?とコムイは一切変わらない表情で言う。一瞬ぞわりと背筋が凍ったのは気のせいか。

「じゃあ、移動しようか。」

コムイは笑みをさらに深めた。

移動中は他の団員に被害が出ぬようにとコムイは娟にブレスレットを渡した。彼は娟に近づくことはできないので、神田が彼女の腕にブレスレットを装着した。この腕につけるものではダメなのかともちろん彼女は伝えたが、コムイに却下される。戦闘向きでは無いからだ。
拗ねた娟は声を出すことができる喜びに浸れず寝台のある部屋に着くまで一言も喋らなかった。

しかし、その部屋に着くと彼女は自由になった声で力の限り叫んだ。本能で叫んだのかもしれない。

「嫌です!!やだ、やめて!!」

それは着いた部屋には怪しげな機械類が壁際に敷き詰められるように置いてあったからだ。何もかも初めて見る娟には、それらはただただ恐ろしいばかりだ(きっと誰だって恐ろしい)。それらを見た瞬間、娟は逃げ出そうとした。しかし現在首根っこを神田につかまれ、逃げ出そうにも逃げ出せない。だがここで諦めるわけにはいかない彼女はジタバタと往生際悪く暴れまわった。

「ちっ・・・おとなしくしろ。」

「怖い、やだ、や・・・!!」

首根っこをつかむ神田の腕を叩くが効果はない。たくましい腕はさして力など入っていないかのように飄々としている。娟はそれが悔しくてならなかった。

「神田くんそのまんま抑えといてー。」

コムイが怪しげな機械のうちから比較的小さなものを取り出し、寝台の上の傍にあるキャスター付きの台に乗せながら神田に指示を出した。無言で神田は従い、なおも暴れる娟を寝台に寝かしつけた。

「悪いね。でも君の体に負担がかからないようにするためだ。戦闘向きでずっとつけていられるようにするにはこれしかない。」

「・・・・っ」

寝台に寝かしつけられた娟は力が入りにくく抵抗を続けるのは体力と気力の問題となって来た。それを節々にくる鈍いしびれによって感じつつ惰性で抵抗を続けた。惰性、と言ったのは半ば彼女の中に諦めがあったからである。いままで見せつけられたことのない男女の差というものに対する諦めだった。

「じゃあ、心の準備は整ったかい?」

怪しげな機械音を発するものを手に持った科学者は愉快そうに笑っていた。
なんとか逃げねば。
その本能は無意識のうちに娟のイノセンスを発動させようとしていた。
もしイノセンスを発動させさえすれば、本当は神田なんてすぐにどかして逃げ出せる。それをしなかったのは神田に害があったからだ。本当はしたくなかったことでがあるが神田は少しくらい手に凍傷を追っても平気だろう。

娟は、覚悟を決めて眉間にシワを寄せ拳を握りしめた。

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