cold body/hot heart | ナノ


▽ 危篤1


「娟!娟!」

AKUMAとの戦闘の後に気を抜こうとした神田の耳にアルトの平常ではない声が聞こえた。何があったのか不明だが急いでかけよる。
二人の約半径3メートル以内に入った瞬間に感じたのは、強いイノセンスの気配だった。神田とモヤシの初任務の時。モヤシが感情でイノセンスを変形させた瞬間の空気を思い出す。今回はその空気に重たい水分を含ませていた。

「どうした。」

「娟が、力を抑えることができないみたいで、そしたら・・・」

娟を抱きかかえるアルトに近づき娟の様子を覗き込む。彼女の症状を確認すると、すぐに何が起きているのかわかった。

「脱水症状だ。イノセンスを扱いきれずに水を操ったせいだな。急ぐぞ。そいつを背負って行く。」

戸惑いつつも指示されたとおりアルトは神田に娟を背負わせた。神田は自分で娟の位置を整え地を蹴った。アルトは後でついて来るはずだ。元気なやつにかまったって仕方が無い。制御ができないせいで娟が死んだ場合、任務失敗なのだから。それだけは避けたいところだ。
別に教団のためだとかそんなのではない。神田はそんなもののために娟を助けたいなどとは思ってはいない。ただ神田は自分の目的を果たすために行っているだけなのだ。
平均的な体重をする娟は神田の一歩のリズムに合わせて揺れている。僅かだがだんだんと背中がしっとりと湿り気を帯びて行くのを感じていたが、今は何が起きているかなど確認する暇もなく先を急いだ。

走ること15分弱。ようやく街並みが見え、神田はさらにスピードを上げた。町の中のそこそこな宿を探しすぐさまチェックインする。

「お客様、そちらのお方はいかがなさいましたか?よろしければなにかお手伝い・・・・」

「いやいい。眠ってるだけだ。」

複数の手続きや店員の心配の声に苛立ちを募らせていたが怒鳴ったり騒ぎ立てたりと余計時間を食うようなことだけは堪えた。今はそんなことよりもこの症状をどうにかする方が大事だ。

指示された部屋へと行き、すぐさま娟を寝かせた。それから上に羽織っていたものを脱がせ、適当な場所へとかける。
その時神田は目を見開いた。娟の服はぐっしょりと濡れていたのだ。背中が濡れていたのはそのせいかと焦りの中で納得する。
目からもほそぼそとだが絶え間無く涙が流れている。手をしばらく握ってみれば、案の定しばらく握っていただけで水の粒が掌にくっついた。

「これは・・・・」

こいつの全身からは水分が抜けていっている。神田は驚きつつ冷静に頭を働かせた。医者に連れていってもおそらくイノセンスに当てられて満足に治療は受けられないだろう。ならば自力でする他ない。
まずは、水を飲ませなくては。
部屋に備え付けのグラスに水を注ぐ。意識のない娟の体を起こし、口を開かせ水を流し込む。服がぐっしょり濡れるほど全身から水分が抜けていっているのだからたくさん飲ませなければならない。呼吸が止まってしまわないよう慎重にゆっくりと水を飲ませて行く。しかし一行に体から抜け出て行く水の量は減ってはいかなかった。
解決するにはイノセンスの発動を止めるしかないが、娟の意識が戻らなければ何もできない。おさまるまで延々と水を飲ませるしかないようだった。おさまるのかどうかも怪しい状態であるのだが。やはり一刻も早く教団に帰りつかねばならない。
神田は最後に5杯水を飲ませてから娟を背負い、宿を出た。
宿を出て、すぐさま駅へと向かう。アルトが着いていればいるはずだ。離れる際に落ち合う場所は決めていた。アルトは三人分の切符と水の入った大きなボトルを持って待っていた。
なぜ、水が必要なことがわかったのか不明だが今はそれが助かった。決して言わないが。
そしてタイミング良く列車が到着し神田たちは乗り込んだ。

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