香る纏う花の色 | ナノ

再会

ラビ、と呼ばれるとたまに違和感を感じる時がある。

それは前の記録地でも、その前の記録地でも。

俺の本当の名前じゃない、仮初の名前。

呼ばれる時の違和感がふとしたときにとてつもない嫌悪感を伴ってやってくる。


生きるか死ぬかわからない兵士となって一年が経った。ヘラヘラと笑い距離をとって遠く遠くで傍観する日々は心が常に死んだような穏やかさがあった。

そこにふと、波風をたてるのがそれだった。

たった一度だけ心の水面を揺らすだけだからすぐに収まる。けれどこの感じがとてつもなく大嫌いだった。

その嫌悪感は俺の中の警告でもあった。警告は俺が近づきすぎているということを知らせているようなものだった。だからそれが聞こえたらすぐさま一歩引くようにしていた。

大嫌いなものだったし、そうすればまた、心は平穏を取り戻したからだ。

一番嫌悪感を強く感じたのは48番目の記録地だった。

嫌悪感は増える一方だったのに、遠ざかろうにも自分じゃどうしようもなくて戸惑って結局は相手も自分も傷ついてここへ来た。

二度とあんな間違いをおかさない。そう決めた。

しかし俺は甘かった。同じ間違いをおかさない覚悟ができていなかったのだ。

その証拠に、俺は彼女が現れてから間違いばかりをおかす。


***



彼女が俺の前に再び現れたのは一週間かけての任務から帰った日だった。

出迎えに来たジョニーに急いでと急かされ食堂へと行けばパーティーが開かれていた。

新しいエクソシストを迎える歓迎会だった。

ジェリーが腕によりをかけて作り出した大量の料理がテーブルを埋め尽くしている。おいしそうな匂いが廊下のほうにも流れ出して、それだけでもうおなかいっぱいになれそうだ。

多忙で四六時中書類やらなんやらとにらめっこしている科学班の面々も、歓迎会に集まっていた。


その中心にたち、いろいろな人からよろしくと声をかけられていた人物。

それが彼女だった。

出会った時のように何も変わらない出で立ち。けれども確実に変わった何か。

見た瞬間に揺れたのだ。それはもう大きく、激しく。

これは、ダメだと思った。同じ過ちがきっと繰り返される、と。確信に近かった。

俺が会場内に入った瞬間、彼女がこちらを振り向く。

見つかる。と思った瞬間に振り向いて逃げた。

「あっ、ラビ!」

ジョニー、の引き止めるような戸惑うような声など耳に入らず、ユウが罵るように呼ぶ「バカ兎」のように逃げた。


怖くなったのだ。

過ちを繰り返すことが。

もう一度傷つけることが。

何よりも・・・自分が傷つくのが。


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