進撃の巨人 | ナノ


兄貴、


いつも背中を追いかけていた。

私より背は小さいくせにやけに逞しく大きく見える背中を。

自由の翼を掲げている今でもそれは変わらない。


「なまえはさ、リヴァイのどこが好きなの?」


いつも巨人のことしか頭にないと思っていたハンジが私に尋ねた。まるで兄貴のどこに好きになる要素があるのかと思っているようすで、でもハンジがそう思うのは無理もないのかもしれないなと少し固いパンを頬張りながら思う。


「どこがって聞かれると難しいよ。好きなものは好きだし、支えたいっていう気持ちのほうが強いし。何かを好きな理由って具体的にある人もいれば、ない人もいるよ。私は後者ね。」


そういうとハンジは少し不服そうだった。どうやら私をからかいたかったらしいけれど私が惚気らしい惚気を言わなかったのでからかおうと思ってもからかいがいを見つけられなかったみたいだ。


「おい、なまえ。」


そこに兄貴がやってきた。


「あとで俺のところにこい。それと、新しく開発したってやつも持って来い。」


「はい、兵長。」


普段は兄貴ではなく兵長なので、私はみんながいる前では兵長と呼ぶようにしている。兄貴に頼り切っていた昔とは違って、調査兵団に入ってからはきちんと自分の足で立ちたいし、公私混同をしたくないからだ。

兄貴は私に伝えるだけ伝えると、さっと身を翻して去っていった。いつも見つめている背中の自由の翼は、兄貴がつけているのを見るときだけかっこよく見える。それは兄貴が人類最強だからなのか、昔から慕い続けていた兄貴だからか、それとも両方なのか、どっちでもいいと思うけれどとにかくその後姿はかっこよかった。


「なまえはリヴァイがだーいすきみたいだね。」


兄貴の後姿をじっと見つめ続けていた私をハンジがからかう。


「もう、ハンジ!」


少し顔が熱くなって思わず私はうつむいた。




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ノックをするとき、それから「入れ。」という兄貴の声が聞こえるとき、恐る恐る中へと入るとき、私はいつもどきどきする。何も悪いことはしていないけれど、何か悪いことをしてしまったような申し訳ない気分になる。

だからいつも、ノックをしてそのおくから兄貴の入れという声が聞こえるとびくっと体を固まらせてしまう。こんなことを兄貴に言うと、いい加減慣れろといわれるけれどなかなかなれることができない。


「し、失礼します。」


思わずどもりながら中へと入ると、背もたれつきの椅子に座り足を組む兄貴がいた。

以前此処に来たときは貴重な羊皮紙になにやら書き物をしていた。そのときの姿もさまになっていたが、今のときのほうが断然かっこいい。


「何をしてる、こっちへこい。」


「あ、はい。」


兄貴に従い、目の前まで近寄る。すると兄貴からさり気なく手を握られて私は固まった。


「あ、の、へいちょ・・・」


こういうのはいつも慣れることができない。ドキドキして緊張して声がつっかえた。

私が緊張しているってわかってるはずなのに、兄貴は手を離そうとしない。

これは、開発した物の報告ではなかったのだろうか。こういう時私は兄貴として接すればいいのか、兵長として接すればいいのかがわからなくて困る。


「こういう時は何て呼べと教えた?」


兄貴が、嫌味なほど意地悪い笑みでもう片方の手も握る。意地の悪い笑みもかっこいいなんてたちが悪い。


「えっと、・・・兄貴?」


恐る恐る聞いてみるとよく出来ましたと言わんばかりの満足そうな笑みが浮かんでいた。

それから兄貴は私をやさしく引っ張って自分の膝の上に座るよう私を促した。後ろに頼り切るわけにも行かないから背筋を伸ばす。


「あ、兄貴、開発した物は、」


「後でいい。」


少し振りむいて肩越しに話す。兄貴は私が背を預けていないことが不服なのか自分から私に身を寄せた。ぴたりとくっつく私の背中と兄貴の胸板の体温を感じる。声の振動や息をするときの動き、それから兄貴の耳元で発せられる声一つ一つに反応してしまう。

普段は体が触れていたってそんなことはないしむしろ安心するくらいだけれど、兄貴が私によくわからないけれど何か温かな感情を注ぐように触れてくれる時だけ緊張してしまうのだ。


「じゃあ、どうして私を呼んだの。」


なるべく態度だけは平静を装うとそれを崩すように兄貴が首筋に顔を寄せて吐息を吹きかけたり唇を掠める。潔癖な性格のはずの兄貴がどうしてこんなことできるのだろう。

ひゃ、とかいう声を挙げないようにこらえる。


「無性にこうしたくなった。それだけじゃダメなのか。」


「だってそれって、」


「わかってる。どうせ職権乱用だとか言うんだろうが。」


「ひゃ、ちょ、兄貴・・・っ」


つまんねえこと言うなと言わんばかりに首筋が舐められた。流石に声がこらえられなくて思わず出る。これ以上は耐えられないと咎める声は、突然のキスに飲み込まれた。

ほんの数秒のキスで私は顔を赤くして俯いた。ずるい、ずるい。そんなことされたら、もう何も言えなくなるとわかっているくせに。


「本当に、兄貴はずるい。」


「お前のほうがよっぽどたち悪いと思うがな。」


「兄貴のほうがずるい。だって、き、キスなんかしたら好きって気持ちが止まんないし、もっと一緒にいたいって思う。」


もぞもぞと体を動かして兄貴の方を向いて抱きつく。私のほうが少しだけ背が高くて抱きしめているという方が正しいのかもしれない。


「ちっ、やっぱりお前のほうがたちが悪い。」


兄貴はよくわからない言葉を呟きながら私を抱きしめ返した。






どうしようもなく、大好き。

だから言葉でも、態度でも、私はそれを表そう。精一杯兄貴を愛したい。

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