俺の優先順位が低すぎないか


3日間に渡る壁外調査を終えて帰宅したリヴァイは、3日振りの妻と子の姿に、若干面白く無さそうにドカッとリビングのソファに腰を下ろした。

「おかえりなさいませ」

と暖かく出迎えてくれたのは使用人だけで、ようやく腹這いが出来るようになった子は、父親に目も暮れずフカフカの絨毯の上を這いずり回っており、妻であるマホは子を見守りながら、ソファで黙々と編み物をしている。
たった今、リヴァイが真隣に腰を下ろしてきても、そちらを見る事もせず

「あ、もう帰ってきたんだ」

と素っ気ない声だけを放って、作業の手を休める素振りも無い。

「おい……。3日振りだぞ……」
「うん。この子も私も変わりないわよ」

そんなものこの様子を見れば分かる、とリヴァイはチッと舌打ちをして、マホの方に間を詰める様にズリッと体を移動させた。

「ちょっと……近付かれると、影になって見辛いわ」

そう言うが早いが、マホの体はスッとリヴァイから距離を取る様に離れる。

「お前は……旦那の帰宅に労いの一言もねぇのかよ」
「ん……お疲れ様」

取って付けた様な口調で、マホは黙々と編み物を続ける。
絨毯の上を這いずり回る子は、キャッキャッと嬉しそうに声を上げて、マホの膝元まで来ると小さな手の平でパチパチとマホの足を叩いた。
途端にマホの編み物の手は止まり、まだ途中らしいそれを傍らに置くと、優しい顏で子を抱き上げた。

「いっぱいハイハイ出来たね。エライエライ……」

キャッキャッと笑い返す子の声は、心なしかリヴァイを嘲笑っているかの様で、益々リヴァイは面白くなさそうに眉を歪め、マホが体を離した分だけまた距離を詰めた。

「おいマホ。俺の優先順位が低すぎないか」

完全に構って欲しい子供みたいな発言だと、自分でも思うものの、そう抗議せずにいられなかった。
きっとこの姿を彼の部下が見たら、しばらく呆然とすることだろう。

「優先順位って何よ?子供が可愛いのは当然でしょ?」
「だとしても、だ。もう少し俺に労いの言葉があっても良いんじゃねぇか?」
「……だってこんなに早く帰ってくると思ってなかったんだもの……」
「あ?どういう意味だそりゃ。俺の帰りが遅い方がお前は嬉しいのかよ」

流石にカチンときて、喧嘩腰な口調で言えば、フゥとマホは呆れた様な溜息を吐いた。
傍らに置いていた、編み掛けの毛糸をスッとマホは手に取る。

「リヴァイが帰ってくるまでに仕上げて渡そうと思ってたのに、まだ仕上がってないし……」
「は?」

編み針が掛かったまま広げられたそれは、まだ短い、けれどマフラーなのだろう。
温かみのある深緑色の毛糸が丁寧に編まれていた。

「それでも今日中に仕上げたいと思ってたんだけど……。貴方は帰ってくるなりグチグチ文句を言いだして、この子の事も見ててくれないし……」

ムゥと唇を尖がらしているマホを見て、慌ててリヴァイは彼女の膝の上にチョコンと座っている我が子を抱き上げ、家族の寝室へと向かうのだった。

それから数時間後、寝室の扉をソッと開けたマホは、ベッドで寄り添って眠る父子の姿に愛おしそうに瞳を細めた。
綺麗に畳まれた完成したマフラーを枕元に置いて、安心した様に眠っているリヴァイを見つめる。

「お疲れ様。リヴァイ。無事に帰って来てくれて、有難う」

そう静かに囁いてマホは、眉間に皺の刻まれていない彼の額に、僅かに触れるだけのキスを落とし、そして彼の傍らに眠っている我が子の額にも優しいキスを落した。

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