ピロートーク
ベッドの下には脱ぎ捨てられたシャツとズボン、そして、ユニコーンの紋章の付いた茶色いジャケットが落ちている。側の椅子の上には、綺麗に畳まれた自由の翼の紋章の付いたジャケットが置かれている。 2つのジャケットを交互に見つめて、マホはベッドの上でモゾモゾと体を揺らした。 その彼女の動きに、ピッタリと隣に付いていたリヴァイの腕が絡み付いてくる。
「大丈夫か?」 「えっ?」
驚いた風に上がった彼女の声は少し擦れていて、リヴァイはそんな彼女を愛おしそうに両手で腕の中に閉じ込めた。
「憲兵団から離れた事……何とも思わないわけじゃねぇだろ?」 「あ……すみません。何だか、色々思い出してちょっとセンチメンタルになってました」 「色々?」 「よく、師団長に怒られてたな……とか」 「ほぅ……。マホよ。てめぇは俺に抱かれた直後に他の男の事をベッドの上で思い浮かべるのか」 「えっ!?ち、違います!!そういう意味じゃなくてっ……」
それは誤解だと、彼の腕の中で顏だけを上げて必死にブルブルと首を振るマホに、勿論分かっていながらも、敢えて意地悪を貫いたままリヴァイは、フン、と鼻を鳴らした。
「何が違うんだ。事実だろうが」 「私はただ……憲兵団から離れたんだって事を実感してただけで……」 「……戻りたいか?」
冗談ぽくも真剣にも聞こえる声色に、マホは不審気に眉を顰めた。 今ここで曖昧な返答などしてしまったら、たちまちユニコーンの紋章の付いたジャケットを着せられて追い出されてしまうんじゃないかと、ざわざわと胸が騒ぐ。 自分の体を包んでいるリヴァイの腕、目先にあるリヴァイの少し拗ねた顏、それを見つめる自分自身の中の確固たる自信にマホは小さく頷いた。
「私は……調査兵団に、リヴァイさんの近くに……居たいです」 「……まぁ、お前がどう言おうが手放す気などさらさら無いが」 「えっ!?」
鳩が豆鉄砲を喰らった様な声を上げたマホのこめかみに、ゴチン、とリヴァイは額を軽くぶつけた。
「当然だろうが。もうお前は俺のモノで、調査兵団の人間だ」 「そ……うですか。はい」 「何だ?不満か?」 「いえ……でも何か、もうちょっとロマンチックなムードに今は浸りた……ッグヒュッ」
ポトポトと喋っている途中で、リヴァイが片手で頬をグイッと挟んだので、それ以上言葉が続かず、ひょっとこの様になった口元からは情けない声だけが漏れた。
「おい……せっかくのロマンチックなムードとやらを、他の男の話題を出して壊したのは誰だ?」 「ひゃ……ひゅいまひぇん……」 「もう一回、やり直しだ」
ブニーッとマホの頬を挟んだまま、リヴァイはそのおかしな形になった唇に荒々しく喰らい付いた。 もう一回の意味するところを悟って、小さな悲鳴を上げて身体を強張らせるマホは、それだけが精一杯で、リヴァイの思うままに組み敷かれるのだった。
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