体の上に乗っかって
リヴァイの眠りは浅い。 これまでの環境で培われたのか、少しの物音や人の気配でも、猫の様にすぐに察知して目を覚ます。 普段ではあれば、部屋に誰かが入ってきた瞬間、いや、誰かが扉の前に立った瞬間から目を覚ますはずなのだが、ここ数日の多忙による疲れと、入って来た人物がリヴァイに警戒を抱かせない存在だったからなのだろう。 ベッドがギシ、と沈んだところでようやくリヴァイは、パチ……と瞳を開けた。
「……なに、してやがる。お前……」
滅多な事で狼狽えないリヴァイの表情から、僅かな動揺が見えて、リヴァイの腹の上に乗っかった彼女はニヤリと嬉しそうに笑った。
「びっくりした?」 「そりゃお前……いきなり目の前に気味悪ぃ顔があったらびっくりするだろぅが」 「気味悪いって酷い!リヴァイが全然相手してくれないから悪いんだよ」 「マホ……ちょっと声のトーン落とせ」
寝起きの頭にガンガン響く声に、リヴァイは煩わしそうに眉間に皺を寄せて、右手を耳に置いてから、恨めしげにこちらを見下ろしている恋人……マホに左手を伸ばしてグイ、と彼女の腕を引いてやる。 リヴァイに引かれるままに、マホは起こしていた上体をトサリとリヴァイの体の上に倒し、彼の鎖骨に額を押し付けた。 マホの腕を取っていた手を彼女の頭へと移動して、宥める様に撫でてやりながらリヴァイは呆れた口調で言う。
「『相手してくれない』……って、忙しかったのはお前も分かってるだろうが」 「分かってるけど、寂しかったんだもん。リヴァイは!?寂しくなかった?」 「そんな悠長な事を考えてる暇も無かったが……」 「『寂しかった』ってゆってよ〜!!」
また始まった……と、リヴァイは顔を引き攣らせて、マホの肩をポンポンと叩けば、よく教え込まれた犬の様に、マホは彼の鎖骨に押し付けてた額をピョコッと上げた。 その表情は従順な犬とは遠く、今にもただをこね出しそうな聞き分けの無い子供の様だ。 リヴァイの手が、そんなマホの頬を優しく撫でた。
「お前は、夜這いする程寂しかったのか?」 「よ、夜這いじゃないし!驚かせようとしただけだし!」 「で?満足したのか?」 「えっ?」 「俺が驚いて、それでお前は満足なのか?」
マホを上に乗せたまま、含んだ様な口ぶりでリヴァイは口の端を吊り上げた。
いつだってそうだ……
悔しそうにマホはキュッと下唇を噛んだ。
驚かせようとしても、主導権を握ろうとしても、簡単に逆転される。 手の平で転がされ、彼の思うままに突き動かされ、けれど、それがマホには心地良かった。
「ほら、どうしたいんだよ?」
ニヤリと意地悪く笑う唇に、マホはゆっくりと自分の唇を重ねた。
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