俺が偉そう?実際、偉いだろ


人によって様々なのだろうが、マホにとって食事というのは睡眠と同じ様に生きていく上で体に必要なモノというだけで、味がどうだとか、食事の場所がどうだとかは全くといっていい程気にしてはいなかった。
強いていうならば、誰かと食事をするより1人でさっさと食べてしまう方が楽、というぐらいで。
それで困る事も無くやってきたはずなのに、マホにとっては普通であるそんな日常が近頃無理矢理に捻じ曲げられてきている事に、少なからず戸惑いを感じずにはいられなかった。

「なんだてめぇ。また此処で食うのか」

スープとパンとちんみりとしたおかずの乗った食器を盆に乗せて、静かに運んできたマホは、すでに厩舎にいた先客に、露骨に嫌な顔をしてみせた。

「……リヴァイ兵士長」

いるだろうとは思っていた。

「食堂で食べるようにしたんじゃねぇのかよ」

いてほしいとも思っていた。
その複雑な感情がまたマホの心を惑わせる。

「……食堂で食べると、ルーク班長が誘ってくるので……」

薄暗い厩舎の中で、相手の顏も見ずに俯いているというのに、痺れる程に強い眼差しに睨目付けられているのがヒシヒシ伝わってきて、足元の土に囁く様な声でボソボソとそう呟いた。

「ルークもとんだ苦労人だな。こんな辛気臭い部下を持って」
「そうかもしれません。放っておいてくれたら一番良いんですが……」

自分の班の班長しかり、現在目の前にいるリヴァイしかり、どうしてソッとしておいてくれないのだろう、という思いが自然に言葉に棘を作らせる。
だが、そんなマホの声色など全く気にもしていない様子で、リヴァイは言う。

「そういうお前の甘い考えが丸見えだから、ルークも俺も放置はしねぇんだよ」
「……甘い?」

怪訝に眉を寄せて、ようやくマホはリヴァイの顏を真っ直ぐに見つめた。

また、複雑に胸が騒ぐ。

鋭く深いグレーの瞳は、マホが思っている以上に色んな事を知ってそうで、だから、睨まれたら、バチリと瞳が合えば、もう逃げられない。

「誰とも関わらずにいた方が楽だと思ってるだろ、お前は」

冷ややかな声が、直にマホの心臓に触れてきて、ゾクリと寒気が走った。

「……だって、その方が誰も傷付けないし、傷付けられないし……」
「それが甘いって言ってんだ。この兵団の中ではそんな勝手は通用しねぇよ」
「でも、エルヴィン団長は別に特に何も……」
「そりゃお前が一応はトラブルを起こしてないからだ。エルヴィンは組織を束ねる立場だからな。お前1人に構ってられねぇだろ」
「……リヴァイ兵士長も私に構ってる暇は無いんじゃないですか」
「ああ。だが前にも言っただろうが。気になった事はとことん追求する。だからてめぇにも構ってやってるんだ」

誰も頼んでない……と、不満を抱いた顏で、マホは不貞腐れた様に言う。

「……何でそんな偉そうに―…」

それは、マホからしたら口に出すつもりも無かった程度の、小さな心の声だったが、しっかりとそれを聞き取ったらしいリヴァイの眉がピク、と上がる。

「俺が偉そう?実際、偉いだろ。何言ってやがる」

勝ち誇ったその口調に、悔しいと思う反面、逆らう余地も与えられず彼の中に取り込まれてしまうこの状況に、自分の中の何かが変わっていく様な期待をマホは感じずにはいられなかった。

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