メール(手紙)の返事を直接言うな
【リヴァイ先生、こんばんは(≧∇≦)】
ハンガーに掛けた白衣をロッカーに仕舞い、スーツのジャケットに腕を通しながらスマートフォンの画面を確認したリヴァイは、ポップアップで表示されているメッセージにピクリと眉を動かした。
【何か用か】
愛想の欠片も無い言葉を返せば、数秒もたたないうちにすぐに返事が返ってきた。
【今日、会えないかなって思って(*´∇`*)】
こういうのはタイミングというやつなのだろうが、丁度リヴァイも今日は外食をする予定だった。1人で外食が嫌いというわけではないが、相手がいる方が味気がある。勿論その相手にもよるが、不本意ながらリヴァイはマホとの食事は、1人で食事をするより好きだった。
【飯を食いに行くが付き合うか?】
やはり素っ気ないメッセージを返して、リヴァイはパタン、とロッカーの扉を閉めた。 更衣室を出て、薄暗くなった廊下を裏口の方へと進む間、スマートフォンがメッセージを受信する事は無かった。 マホの事だから、またすぐにメッセージを送ってくるか電話をしてくるのだろうと思っていたが、3分以上経っても返信が無いという状況に少しリヴァイを怪訝な気持ちになる。 これが、マホ以外の人間なら、なかなか返信が無くとも大して気にはならないのだが、どうもマホの事となると、気になってしまうのだ。
クリニックを出ても返信が無ければ、こっちから電話してやるか……
そんな事を思いながら裏口の扉を開ければ、冷たい空気に身が竦まる。 寒さに連動したのか、マホの温かく柔らかい肌の感触が脳裏を掠め、その煩悩を振り払う様にリヴァイは軽く頭を振った。
今日会えば、きっとまた身体を重ねる事になるのだろう。 何がリヴァイをそうさせるのか……。 永遠に解けなさそうなその謎が、常に胸の奥に燻っている。 そして依然、返信の来ないメッセージ画面に苛立ち、その感情を面倒だと思いながらも、電話を発信しようと構えていた。 クリニックの門を出て、発信画面を押そうとした……その時だった。
「リヴァイ先生!お疲れ様です!!」
電話を繋ぐよりも早く耳に届いた声に、呆気に取られていたリヴァイの前に、ピョコン、と真っ白いコートを着たマホが現れた。
「てめぇ……またストーカーか」 「え……あっ、すみません。あの、お食事、ご一緒していいなら行きたいです!!」
困った様に眉を下げて笑って、マホはリヴァイに自分のスマートフォンの画面を見せた。
【飯を食いに行くが付き合うか?】
を最後に途絶えているメッセージ画面に、フン、と鼻で笑って、リヴァイはマホをすり抜ける様にしてスタスタと歩き出す。 すぐにトットコとブーツを鳴らして着いて来る足音に、妙に安心を感じていた。
「お前な……」 「はいっ?」 「返事を直接言うな。さっさとメッセージを返して来いよ」 「すみません……。会って言った方が早いかなって思って」 「なら、来てると報告しろ。急に現れるな。気持ち悪ぃ」 「すみません……」
しょんぼりとしたマホの声に、リヴァイは僅かに歩調を緩め、チラリと横目で彼女を見遣る。 真っ白いコートが、街灯と月明かりを吸収して、夜を照らしている。
「そのコート……」 「はい?」 「新しいのか?」
もう冬も終わりに近付いている時期だ。これまでにも寒い日に会う事はあったが、真っ白いコートを着てるマホは今まで見た事が無かった。 エヘヘ………とマホは笑うと、膝辺りまであるコートの裾を軽く持ち上げて見せた。
「この間買ったばかりなんです。見た瞬間に、リヴァイ先生を思い出してつい買っちゃいました」 「あ?何で俺を思い出す。意味分かんねぇぞ」 「だって……リヴァイ先生は白衣だから……」 「……………くだらねぇ」
悪態とは裏腹に、強い安心感がリヴァイの心に広がっていく。
馬鹿だとは思う。 くだらないとも思う。 けれど、それを悪くないと思ってしまっているのも事実で……
いつの間にか同じ歩調で並んで歩く2人の影を、丸い月が優しく照らしていた。
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