だから誤解されるんだ
「見ろ!リヴァイ兵士長だ!!」
突き刺さって来る羨望の眼差しに、リヴァイはチッと煩わしそうに舌打ちをする。 それを目敏く聞き付けたハンジが、馬上からヒョイと首だけをリヴァイに向けて伸ばして苦笑気味に言う。
「もう少し愛想良くすればいいのに、ねぇ?マホ」
急に話題を振られた事に驚いたのか、マホは手綱を取り落とし、危うく落馬しそうになりながらも何とか体勢を整えてから、コホンと取り繕った咳払いをする。
「え、えっと、リヴァイさんの人気はやっぱり凄いんだなって……」 「だからこそだよ、マホ。もっとリヴァイが観衆に向かって愛想の1つや2つでも振り撒いてくれたら、きっと調査兵団への寄付金もグッと増えると思うんだよね」 「フザけるな。そんな事をするぐらいなら巨人に愛想振り撒く方がマシだ」 「えっ!?何なに?巨人を捕まえるのに協力してくれるって話?」 「どうしたらそう解釈出来るんだ。耳にクソでも詰まってんのか、てめぇ、クソ眼鏡」 「え?あのね、今度は10メートル級の巨人を捕まえたいなぁ。無理かな?出来ると思わない?無理かなー……?」
いらんスイッチを押してしまった、と溜息を吐くリヴァイを見てマホは可笑しそうに笑う。
「おいマホ。てめぇ何が可笑しい」 「えっ……あ、すみません。リヴァイさんとハンジさんのやり取り見てると面白くて」 「何が面白いんだこっちはいい迷惑―…」
眉間の皺を深くしてブツブツとぼやいていたリヴァイが不意に、ある1点を見つめて言葉を止めた。 何かあったのだろうか、とリヴァイの視線の先を辿ろうとしても、沢山の人群れで何処を見ているのかがいまいち分からず、ハンジとマホは顏を見合わせて互いに示し合せたかの様に首を傾げた。 すると、リヴァイはグイと片手をマホに向かって伸ばし、視線は相変わらず何処かを見つめたまま言う。
「マホ。お前今、菓子持ってるか?持ってたら寄越せ」 「えっ?あ、ええと、多分クッキーが……」
言いながらジャケットの内ポケットからマホは、小さな茶色い紙袋を取り出して中身を覗き込んでウンウンと頷いた。
「後3枚残ってます」 「袋ごと渡せ」
基本リヴァイの命令には忠実なマホは、突然の要求に嫌な顔1つせず、リヴァイの手の平にクッキーの入った袋を乗せた。 その袋を優しく持ちながら、リヴァイはスタンと馬から降りると、「持っとけ」と短く告げて手綱をマホの手に握らせた。
「リヴァイ、何処に行くんだっ?」
そう尋ねるハンジに応えず、足早にリヴァイは観衆の方……おそらく先程ジッと見つめていた方向へと歩いて行った。 「おおおおぉぉ」と沸く歓声を、完全に無視しながら真っ直ぐにリヴァイが向かった先には、肩を震わせて泣く1人の幼い少女の姿があった。 周囲の観衆は誰も少女に気付いておらず、少女はしきりに辺りを見渡しておりその口は何度も「まま……」と動いている。 その少女の目の前まで辿り着いたリヴァイは、眉間に皺を寄せて立ったまま少女を見下ろし、ヌッと袋を持った手を差し出した。
「おいガキ。ピーピー泣くな。これでも食っとけ。そのうち親は見つかる」
涙を溜めた瞳をキョトンとさせて硬直している少女の小さな手に、リヴァイは無理矢理、菓子の袋を握らせて、またスタスタと愛馬の方へと戻って行く。 そんなリヴァイの背中から、「あ、まま!!」と少女の嬉しそうな声が聞こえて、思わず足を止めてクルリと振り返っていた。 少女に駆け寄る、母親らしい女性の胸に飛び込んで、また少女はワンワンと泣き出した。
「ちいさくてこわいおじさんが おかしくれたけど こわかったよぉ……」
一瞬だけ、リヴァイの瞳が悲しそうに揺れたが、すぐに冷ややかないつもの顏に戻り、フン、とマホから手綱を奪い取ると、寂しそうにしている愛馬をポンポンと叩いてやりながら、再び馬に跨った。 そうしてから、ジロリとマホを睨み付ける。
「おい、また何を笑ってやがる……」 「え、あ……すみません。だってリヴァイさん、優しいのに無愛想だから……」 「知るか。これが俺だ。お前は不満でもあるのか」 「私は無いですけど……」 「ならいいじゃねぇか」
そう言ってニヤリと口角を上げる恋人に、マホは呆れた顏で笑うのだった。
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