こんな恥ずかしいこと言わせんな
「ねぇリヴァイ。ちゃんとマホに愛してるって言ってる?」 「あ?」
突如ハンジが言ってきた言葉に、リヴァイは気味悪そうに眉を潜めた。 そんな台詞はやすやすと口にするものでは無いし、増して他人からそんな事を指摘される意味も分からない。 だが、ハンジは思案顔で顎に指を当てて言う。
「いや、この間マホが真剣に雑誌を読んでたから気になって後ろから覗いたんだよね」
悪趣味な行動をしてんじゃねぇよ……と思いながらも、リヴァイ自身もその雑誌の内容とやらが気になったので、黙って彼女の言葉の続きを待った。
「それが、『パートナーに【愛してる】と言ってみた』っていうその雑誌の人気コーナーのページだったんだ」 「何だそれは……」
聞けば、そのコーナーは読者が実際にパートナーに『愛してる』と言ってみた体験談を掲載していて、カップルや夫婦のリアルな日常が垣間見えて大層人気なのだとか。そして、マホはそのページを羨ましそうに読んでいたらしい。
確かに、“愛してる”なんて、マホに言った事は無い。言わなくとも通じているだろうし、きっと今後も言う事は無いだろう。 だが、ウソかホントかハンジに言われた事が耳に引っ掛かる。 マホが欲しいと思うなら何でもしてやりたいというのが、リヴァイの信念であり、願望だった。それは、恋人になる前−…リヴァイ自身がマホを好きだと自分で気付いた時からずっと変わらず思っている事なのだ。
「あいしてる、か」
練習の様に1人でポツリと言って、あまりの羞恥に片手で顔を覆ってリヴァイは俯くのだった。
その日の夜、部屋を訪れたマホが、ソファの上で呑気に紅茶−勿論リヴァイが淹れた−を飲んでいるのを横目で見ながら、リヴァイは何度目になるか分からない深呼吸をする。 その何度目か分からない深呼吸に、不思議そうにマホはカップから唇を離してリヴァイを見た。
「どうしたの?何か今日、疲れてる?」
邪気の無い真っ直ぐな瞳に、(本当にマホは『愛してる』なんて言葉を欲しがってるのだろうか)と疑問を抱かなくも無かったが、言うと決めた以上リヴァイ自身の心が後には引けず、ゴクリと生唾を呑み込んで、マホの瞳を強い眼差しで見つめ返した。
「マホ……」 「えっ?」 「…………ぁ、ァィシテル…」
ボソボソっと、蟻の囁きの様な声量で放たれた言葉にマホは目を見開き、ポカンと口を開けた。
「え、あ、あの、ゴメン。今、何て?」
全く聞こえていなかったわけでは無いだろう。心做し赤らんでいる彼女の頬が何よりその証拠だ。それでも聞き返してしまうほどに、耳を疑う言葉だったのだろう。 ここで、「何でも無い」と返してしまうのが1番簡単ではあったが、その易しい選択に背を向けてリヴァイはもう一度スゥと深呼吸繰り返した。
「だから……『愛してる』と言ったんだ。こんな恥ずかしい事言わせんな」 「えっ!?ま、待ってよ、私は何も言わせてなんか……」 「そういう事が書かれた雑誌を羨ましそうに見てたらしいじゃねぇか」
少し拗ねた口調でリヴァイが言った事に、マホは赤い顔のまま首を傾げた。
「何それ?私、そんなの見てないよ……」 「クソ眼鏡が言ってたが……」 「えー…って、あ、あれかな?」 「あれって何だ」
もう既に緊張も羞恥も消し去った顔でリヴァイが問えば、マホはちょっと待ってて、と告げて足早に部屋を出て行った。 1人部屋で待たされる事数分で戻って来たマホの手には一冊の雑誌が持たれており、パラパラと読み捲って1つのページを開いたままバンとテーブルに置いた。 確かにそのページには 【パートナーに『愛してる』と言ってみた】 と大きな見出し文字が躍っているが、肝心のマホが指差しているのは、そのページの左端下のコーナーだった。 【『愛してる』と言ってみた】コーナーの3分の1のスペースも無い小さいものではあるが、 【バストアップ体操】 という文字がしっかりとリヴァイの目にも入ってきた。
「……何読んでんだお前…………」
呆れたリヴァイの声に、恥ずかそうにマホは瞳を潤ませた。
「だ、だって、リヴァイは巨乳が好きだと思って……ってこんな恥ずかしいこと言わせないでよ!!」 「どっちがだ……」
お約束通りその後で、リヴァイはマホの控えめなサイズの胸にしっかりと“巨乳好きじゃない”という事を教え込むのだった。
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