俺と離れるのが寂しくないのかよ
マホと恋人になってから、業務後はなるべく彼女の元に向かう様にしているリヴァイにとっては、もうこの家は“帰る場所”になっていた。 最近では、家で出来る書類仕事は持ち帰る様にしていたので、よりこの家に帰れる頻度は増えていた。 だがそうなればそうなるほど、月に1度の割合で訪れる“絶対に帰れない業務”が辛く長く感じるようになるのだ。
「リヴァイさん!沢山食べて下さいね」
壁外調査の前日は毎回、いつも以上に手の込んだ料理がカウンターのテーブルを飾る。 そして、リヴァイがそれを口に運ぶのをニコニコしてマホは隣に座って見守るのだ。
「この肉にかかってるソース……いい味付けだな」 「本当に!?クランベリーを少し使ってみたんです。後味がサッパリするかなと……」
パァッと顔を輝かすマホからは、寂しい素振りなど全く感じられない。 『行ってらっしゃい』 の時も 『お帰りなさい』 の時も、マホは変わらない笑顔をリヴァイに見せてくれる。 その笑顔に安心もするし、愛おしいとも思う。 だが、時にそれはリヴァイを複雑な気持ちにさせる。 『行かないで』と縋ってほしいわけじゃない。 寧ろそんな事をされたら鬱陶しいこと極まりない。 だが、全く寂しそうにされないというのも何だか物足りない。
離れるのが惜しいと思っているのは俺だけか……
甘酸っぱいソースの掛かった肉を噛み締め、残りわずかになった皿の上を睨み付けながらリヴァイはボソリと言う。
「今回の壁外調査は長距離の遠征になる」 「……はい」
マホの返事が少し沈んでる様に聞こえたが、表情まで確認する勇気はなく、皿の上に視線を固定したままリヴァイは続ける。
「長くなれば、一週間ぐらい戻れないかもしれない」 「はい。気を付けて行ってきて下さいね」
いつも通柔らかいの口調が、リヴァイの胸奥を甘酸っぱくさせる。 フォークに最後の一口の肉を刺して口に運べば、甘酸っぱい感覚が更に強くなる。
またしばらく、マホの手料理が食べれない……
「お前は……」 「はい?」 「俺と離れるのが寂しくないのかよ」 「えっ!?」
言った直後に後悔した。
これじゃまるで、引き止めて欲しいみたいじゃねぇか……
空になった皿に、フォークを置く音がカチャリと響く。 スルリと伸びてきたマホの手が、リヴァイの前の食器を攫って行く。 いつもならすぐに椅子から立ち上がり皿を洗いに行くのに、自分の前に食器を重ねたまま、マホはリヴァイの隣から動こうとしなかった。
「リヴァイさん」
やはり柔らかみある彼女の声色に、ビクとリヴァイは微かに肩を震わせた。
「ちょっとだけ……いいですか」
切なさを織り交ぜた声でそう言って、直後、マホはリヴァイの肩にコテン、と自分の頭を預けた。 右肩に感じる彼女の重みを確かめる様に、リヴァイは手を伸ばして金色の頭を優しく包んだ。 フルフルと静かにマホが首を振る。
「寂しい……です。リヴァイさんが帰って来ない日はベッドが広くて冷たくて、なかなか眠れないです。けれど、絶対にリヴァイさんは帰ってくる……。その自信があるから……」 「自信?」 「は……い。自惚れるなって言われそうですけど、リヴァイさんは絶対に私を1人にしないって……兄さんの時みたいな悲しみを絶対に私に味あわせないって、そんな自信があるんです」
恥ずかしそうに言って、マホはリヴァイの肩に頭を預けたまま上目使いに彼を見上げた。
「自惚れ……ですか?」
クッとリヴァイの眉間に皺が寄り、何かを堪える様に噛み締めていた唇が開いた。
「……自惚れじゃねぇよ。絶対にお前を1人にはしない」
やっと手に入れた“帰る場所”を手放すものかと、リヴァイは強く心に誓うのだった。
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