あんなの生真面目に答えるな


午前だけで診療が終わり、半休になる土曜日……とは言っても、何だかんだとしていたら更衣室に入ったのは13時過ぎだった。
何となく……今日はマホから連絡があるだろう、と予想はしていて、案の定、取り出したスマートフォンはメッセージの受信を告げるランプが点滅していた。

『リヴァイ先生、今日って会えますか?』

思った通りの人物からのメッセージに、リヴァイの口角がクイッと満足気に上がった。


「リヴァイ先生!!」

待ち合わせにと指定した、駅前の大きな時計台の前、嬉しそうに笑って駆け寄ってくるマホの手には、小さな紙袋がぶら下がっていた。

「ハッピーバレンタインです!リヴァイ先生!!」

寒さの所為か頬を真っ赤にして、白い息を零しながら、それでやはり嬉しそうに、マホは手に持った紙袋をリヴァイに差し出してきた。
それをすぐには受け取らず、不信気に睨み付けているリヴァイに、マホは慌てた様子で言う。

「あ、あの、余り甘い物は好きじゃないだろうから……ウィスキーボンボンなんです。それなら食べれるかなって……」

甘い物というか菓子自体を食べないのだが、捨てられた子犬の様に見つめてくる瞳に負けて、リヴァイはその紙袋を受け取った。
自分の手から紙袋が離れ、リヴァイの手に渡るのを見届けて、マホは強張っていた顔に安堵の色を浮かべた。
それを見ていたリヴァイにも、伝染する様に安堵感が押し寄せてくる。

「何か食いに行くか」
「はい!!」

例えば……とリヴァイは思う。
例えば、マホとこのまま恋人という関係になったらどうなるのだろうか。
おそらく今と大して変わらないだろう。
マホはいつも全力で愛情を向けてきて、リヴァイはリヴァイなりに彼女を大切にしている。

だったらもう恋人でも……

ぼんやりとそう考えていたリヴァイを、一気に現実に戻す様な賑やかな声が聞こえてきた。

「あれ!?リヴァイとマホちゃん!!」

声の方を見なくとも誰かは分かっていて、ハァと煩わしげな溜息を吐いたリヴァイの隣で、嬉しそうにマホが声を上げる。

「ハンジ先生!ナナバ先生!」

ナナバまで居やがるのか……と、チッとリヴァイが舌打ちをした時、カツカツと2人分の足音がすぐ側まで近付いてきた。
この状況で知らんぷりを貫き通せるわけもなく、渋々とそちらに顔を向ければ、如何にもなしたり顔の2人がニマニマとリヴァイを見ていた。

「何してんだよ、お前等」
「いやぁ、バレンタインに予定も無い寂しい女子2人でランチしてたんだけど、まさかリヴァイとマホちゃんのデート現場に出くわすなんてねぇ……」

下世話な笑みでそう話すハンジに軽く殺意を感じているリヴァイの隣で、マホは不自然な程にワタワタしだした。

「で、デートって、そんなっ……」

マホの反応を可笑しそうにしていたナナバは、ふと、リヴァイの手元に視線を向けた。

「リヴァイが持ってる紙袋はマホちゃんからの贈り物?」

関係ねぇだろ……とリヴァイが口を開く前に、マホが馬鹿正直に喋り出した。

「あ、私が勝手に渡して、リヴァイ先生は仕方なく受け取ってくれただけなんです。」
「相変わらず面白いなぁ、マホちゃん。本当にリヴァイの事が好きなんだね」
「えっ……そ、それは……はい……」

ポッと頬を赤らめて俯くマホに、ハンジとナナバは声を上げて笑った。

「はいはい、ご馳走様。この感じだとマホちゃんの精神状態と安泰だね。じゃ、私達はもう行くね。ごゆっくり」

アハハと笑いながら手を振って去って行く2人の背中に向かって、手を降り続けているマホをジロリとリヴァイは睨み付けた。

「余計な事ばっかり言いやがって……」
「えっ!?あ、すみません。でも、変に誤魔化すのもあれだし……」
「あんなの放っとけ。生真面目に答えるな」
「すみません……」

別に、“やっぱり付き合ってるのか”と勘繰られていたとしても構わなかったのに……という気持ちは胸奥に締まって、リヴァイは敢えて毅然とした態度でマホに「行くぞ」と言い放つのだった。

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