強くもないのにそんなに飲むな


壁外調査後の定例である、幹部組だけでの呑み会、それにマホが参加するのも定例になっており、その日も籠に入れた数種類のお菓子を持って、団長室を訪れていた。
既に集まっていた面子を順に見て、マホは不思議そうに首を傾げた。

「あれ?リヴァイさんは……?」

他は皆揃っているのに、自分の恋人、リヴァイの姿だけが見当たらず、それでも諦めきれない様にマホは室内をキョロキョロしている。
そんな彼女に見兼ねたナナバが口を割った。

「今回の壁外調査で、重症を負った兵士のところに寄ってるよ」

その兵士についてはマホも覚えがあった。
命に別状は無かったものの、兵士としての復帰は厳しいかもしれない……と、壁内へ帰還の路を辿っている時にリヴァイとエルヴィンが話していたのを聞いていた。

確かその兵士は……

マホが何か言う前に、ゲルガーが下世話な笑みで言う。

「リヴァイに憧れてた兵士だったからな。たしかかなり昔にリヴァイと付き合ってたんじゃなかったか?」
「え、違うでしょ?リヴァイに告白してフラれたって聞いたけど……」

ハンジもその話題に便乗しだし、噂話モードにシフトしそうになった室内に、パンパンとエルヴィンが手を叩く音が響いた。

「とりあえず先に始めよう。リヴァイもすぐ来るだろうし」

言って、安心させる様にマホを見てエルヴィンは頷いた。
それはあたかもマホの心情を理解しているかの様で、逆にそれが恥ずかしくてマホはパッとエルヴィンから目を逸らしていた。


「おい……これはどういう状況だ」

それから僅か1時間後、団長室の扉を開けたリヴァイは、中の光景……正確にはある1点だけを見て、不可解そうに眉を顰めていた。
丸い大きなローテーブルを囲う様にして酒を呑み交わしている面子はいつも通りだが、そこに混じっているマホは、もう完全に出来上がっていて、真っ赤な顔でグビグビと酒を煽っていた。
彼女の隣に陣取る形で、付いていたエルヴィンが片眉を下げて笑う。

「呑みすぎじゃないのかと、注意はしたんだがな」

苦笑しているエルヴィンにチィッと舌打ちして、リヴァイはズカズカとマホの隣まで来てしゃがみ込んだ。
自分のいない場所で恋人がベロベロに酔っているという姿は気分の良いものではない。

「おい、マホ。てめぇ、強くもないのにそんなに飲むな」

たった今マホが口付けようとしていたグラスをバッと奪い取ると、マホはトロリンとした瞳で首を傾けながらリヴァイを見つめた。
酔っ払いに何か言っても無駄だとは思うものの、悪態の1つでも吐いてやろう、とリヴァイが息を吸い込んだその時、マホの頭がグラリと揺れてコテン、とリヴァイの胸に凭れてきた。

「おいっ……」
「リヴァイさんだ……」

胸に押し付けている頭をスリスリと甘える猫の様に擦り付けてくるので、何か言ってやろうと思っていた気持ちもシュゥ……と鎮火していく。
周囲から―主にゲルガーとハンジから―ヒューと茶化す様な声が聞こえてきて、煩わしそうにしながらリヴァイはマホの肩を抱いてゆっくりと立ち上がった。

「悪いがこの酔っ払いを寝かし付けてくる」
「そのまま帰って来なくてもいーよー」

ニマニマと笑って言うハンジをギロリと睨み付けて、リヴァイはマホの体を優しく介抱しながら団長室を後にした。


マホの部屋に入り、依然肩は抱いたままベッドに共に腰掛けてリヴァイは少し心配そうに彼女の顏を覗き込む。

「おい。何かあったのか?」

リヴァイが無理に呑ませて潰してしまうという事は今まで何度かあったが、マホが自分の意志で呑み過ぎるという事はまず考えられない。
すると、マホは力無く首を横に振って、ズズッと鼻を啜った。

「違うんです。私、最低なんです」
「あ?さっぱり分かんねぇぞ。何言って―…」
「リヴァイさん」

言葉を遮る形でマホが口を割るので、思わずリヴァイはクッと口を閉じた。その隙を狙うかの様にフワリとマホの唇がリヴァイの唇に触れる。

「何だ……?積極的なのは良いが、酔っ払いを抱くつもりはねぇぞ」

言いながらも、肩に置いた手はいつの間にかマホの腰をサワサワと撫で回している。
その感覚が心地良いのか、ピクン、と腰をくねらせながら、それでも切なげに瞳を揺らしてマホは言う。

「リヴァイさんが、怪我をした兵士のところに行ってるって聞いて……」
「あ?……ああ」
「その人、女性ですよね?リヴァイさんに憧れてたって……。私、そんな事思っちゃいけないのに、嫌だなって感じてしまって。リヴァイさんは私の恋人なのにって思っちゃって……。それで自棄酒とか、最低です……何でこんなに独占欲が強いのかって自分でも―…」
「マホ」

さっきとは反対にリヴァイがマホの言葉を遮る形で名前を呼び、怯えた顏が自分を見上げた瞬間に、深く彼女の唇に吸い付いた。

「んっ……ふ…………」

無理矢理舌を捩じ込んだ唇の隙間から漏れ聞こえるマホの苦しげな吐息に煽られて、リヴァイはそのまま彼女の身体をベッドにグラリと倒した。

「お互い様だな」
「えっ?」
「さっき、お前の隣にエルヴィンが座ってるのを見た時、腸が煮えくり返りそうだった」
「え、エルヴィン団長?隣に居ました?」

すっ呆けた様なマホの返答に、フン、と鼻で笑って、リヴァイはまたマホの唇に熱い感情を注ぎ込んだ。

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