夢と同じこと言ってんじゃねえ


それは、情事後独特の甘やかな一時の事だった。
普段ならそこまでしないのに、マホに腕枕をしてやり、サラサラと髪を撫でていたリヴァイに、嬉しそうにしながら彼女は言う。

「私、きっと前世でもリヴァイ先生に恋してたんだと思います。だからこんなにリヴァイ先生の事が好きなんですよ」

相も変わらず馬鹿げた事を言ってやがる……と思いながらも、その馬鹿さ加減が愛おしくて、彼女の頭を抱き寄せた。

…………パ、と瞳を開けたリヴァイは、視界に入った見慣れた自室の天井に、ため息混じりにベッドから起き上がった。

「最悪な目覚めだ……」

ボソリと吐き捨てた言葉は、まるで自分にそう言い聞かせているかの様だった。


朝に見た夢の所為かは分からないが、珍しくリヴァイからマホに「会えるか」と診療時間を終えて連絡をすれば「リヴァイ先生のお家に行きます!!」と、嬉しそうな返事が返ってきた。
自分で行くと張り切るマホを軽く否して、リヴァイはマンションに戻るなりその足で駐車場へ向かった。
“会いたい”のか“抱きたい”のか……
そんな自問は無駄だ、とアクセルペダルを強く踏み込んだ。

もう何度来たか分からないアパートの門の前、寒さを堪える様に首を竦ませながら突っ立っている人影に、リヴァイはチッと舌打ちをしながら、敢えてキツく幅寄せして停車した。

「リヴァイ先生!!」

冷気と共に助手席に乗り込んで来た彼女を、ギロリと恨めし気に睨み付ける。

「てめぇ……外で待つなと何度言えば分かる」
「す……みません。リヴァイ先生が来てくれるって思ったらいても立ってもいられなくて……」
「体を冷やすのも、月経困難症の原因になるぞ」
「でも、中にいっぱい着てますよ!」
「手を貸せ」

冷静な口調で言って、手の平をセンターコンソールにリヴァイが置くので、マホは条件反射の様に彼の手の平の上に自分の手を置いた。
触れた瞬間に伝わる暖かい熱にホォッと絆された様に息を吐いたマホを、またギロリとリヴァイは睨んだ。

「冷えてるじゃねぇか」
「す、すみません」
「もう少し自制心を持てよ」
「ん……でも、リヴァイ先生の事になるとこうなっちゃうんですよね」
「どういう理屈だ、そりゃぁ……」

呆れた顔でそう言って、リヴァイはマホの手を外すと静かに車を発進させた。
リヴァイの手に触れていた右手を、愛おしそうに左手で包んで胸元に持っていきながらマホは言う。

「私、きっと前世でもリヴァイ先生に恋してたんだと思います。だからこんなにリヴァイ先生の事が好きなんですよ」

思わず、ハンドルから外しそうになった手を握り直して、リヴァイはボソリと呟いた。

「夢と同じ事言ってんじゃねぇ」

その言葉に、マホを瞳を目一杯真ん丸くして、グルッと運転席へと顔を向けた。

「ゆ、夢って、何ですか!?」
「……何でもねぇよ。気にするな」
「え、え、気になります。っていうか、リヴァイ先生の夢に私が出て来たって事ですよね!?それって凄く嬉しいです!」
「そうかよ。俺は最悪な目覚めだった」
「す、すみません。でも、やっぱり私は嬉しいです!!」

真っ直ぐ前方に目線を置いていても、マホがふにゃふにゃした笑顔になっているだろう事は安易に想像がついて、フン、と鼻を鳴らして、リヴァイはまた強く、アクセルペダルを踏み込んだ。

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