ここまできてオアズケできるか


「マホ……」

全ての時が止まったような、静かな深夜の時間帯、隣で眠るマホの体をギュゥと抱き締めて、リヴァイは彼にしては珍しい甘えを織り交ぜた声で彼女の名を呼んだ。

「ん……リヴァ……イ?どうしたの?」

眠りを妨げられた事を不服そうにしながらも、マホは薄らと瞳を開けた。
2人が眠るベッドの脇にあるベビーベッドでは、スヤスヤと2人の宝が眠っている。
リヴァイは、下半身をマホに擦り付ける様にしながら、彼女の首筋にチュゥと吸い付いた。

「んっ……リヴァイ?」

そのリヴァイの行動が何を意味するか何となく予想はつくものの、マホは疑問符を浮かべた声をリヴァイに向けた。
数日に渡る壁外遠征からやっと帰ってきたのは数時間前の事で、それに加えてこのところ調査兵団は忙しく、壁外遠征に出る数週間前から殆ど家に帰れない日が続いていた。
当然、家族団欒の時間は減り、今日もリヴァイが家に帰ってきた頃には、もうすでに我が子はスヤスヤと眠りこけていた。
かろうじて起きていたマホも、ベッドの上でウトウトしており、軽いキスを交わしてすぐに風呂に行ったリヴァイが再び寝室に戻って来た時には彼女もすっかり夢の中だった。
マホの声を無視して、首筋へのキスを続けていたリヴァイはやがて、彼女の寝間着のネグリジェの肩口にスルリと指を忍ばせた。

「もうっ!リヴァイ!」

パチン、と子供を叱るかの様にマホは、リヴァイの悪戯な手を軽く叩いた。

「今、何時だと思ってるのよ。大体リヴァイも壁外から帰ったばかりで疲れてるでしょ?」

呆れた顏で言うマホを、リヴァイはギラツいた瞳で見つめる。

「疲れてない。ヤラせろ」

あまりにストレートな発言にマホがポカンとすれば、その隙を狙ったかの様に、リヴァイは彼女の軽く開いていた唇を深いキスで塞いだ。
静かな深夜の寝室に、舌と唾液の絡み合う水音が響く。
飢えた獣を思わせる獰猛なリヴァイの口付けに、彼の中に潜む激しい欲望を感じて、ドクリとマホの体も波打つ。
こんな風にリヴァイが強く求めてくる事は珍しく、だからなのか、拒否をする気にはならなくて、マホはリヴァイの首にスルリと腕を絡めた。
再びリヴァイの手がネグリジェの肩口に忍び込んできても、もうマホは抵抗を示さなかった。それどころか、知り尽くした手が与えてくる刺激に、いつの間にか甘い吐息を漏らしていた。
家族の寝室が、すっかり淫靡な空気に変わっていたその時、まるでその空気に耐えられなかったかの様に、ベビーベッドの中がブルゥと震えた。
マホのトロンとした表情は一気に母親の顏になり、半裸に剥かれた状態で急いでベッドから起き上がると、ほぎゃぁぁぁぁ……と泣いている我が子を抱き上げた。

「どうしたの?目が覚めた?大丈夫よ……」

優しく囁き、体を揺らして我が子をあやすマホからは、先程までの淫靡な雰囲気は消え失せていて、リヴァイはおもむろに眉を顰めた。

「おい……」
「しょうがないでしょ。起きちゃったんだから。ほら、もうリヴァイも寝なさいよ」
「フザけるな。ここまできてオアズケできるか」
「……じゃぁ、この子が寝るまで待てる?」
「俺はヤルと決めたら絶対にヤル男だからな」

そんなの威張って言う事じゃない、と呆れながらもマホは、フンと鼻息を荒くしている夫を愛しいと思うのだった。


再び静寂を取り戻した部屋の中、マホは腕の中でスヤスヤと眠る我が子を起こさないようにソッとベビーベッドへと戻し、優しく掛布団をかけてやった。
そうしてから、やけに静かになったリヴァイの方に顔を向けたマホは、彼の姿を認めて眉を下げて笑った。

「なんか、子供が2人居るみたい……」

1人呟いてマホは、スースーと穏やかな寝息をたてているリヴァイにも優しく布団を被せるのだった。

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