照れ隠しでもそこまで否定するな


「マホさんってリヴァイ兵長と付き合ってるんですよね」

訓練の間の僅かな休憩時間、自分の班員の兵士にそう聞かれて、マホはぎこちなく笑い返した。
付き合っている事を隠しているというわけでは無いが、あまり公にはしたくないというのがマホの本心だった。恥ずかしいというのも理由の1つだが、やはりモテるリヴァイの恋人というのは少々肩身が狭いのだ。
別に嫌がらせをされるとか、文句を言われるとか、そういう事があるわけでは無いが、そこは複雑な乙女心というやつだろう。
なので、こういう風に直接聞かれてしまうといつもマホは上手く立ち回れないのだ。
「違う」というのはおかしいし、二つ返事で頷くというのも気が引ける。
部下に当たる兵士の若さ故に好奇心の溢れた瞳から逃れる様に、目を伏せてマホはモニョモニョと呟く。

「い、一応……」

結局、そういう返ししか出来ないのだ。
その言葉を聞くが早いが、兵士はパァッと顏を輝かせた。

「やっぱりそうなんですね!噂では聞いてたんですけど!リヴァイ兵長ってああ見えて凄く優しそうですよね!?ああああ何か良いなぁっ……。私の尊敬しているマホさんとリヴァイ兵長が恋人なんてっ……。最高のカップルですよね!!」

滅多に部下から“尊敬してる”などと言われる事は無い為に、ボッと火が出る程マホの顏が熱くなる。
本人に悪気は無いのだろうが、そういう類の称賛の言葉はマホが最も苦手とするものだった。

「そ、そんな事ないよ!私とリヴァイは、恋人っていってもそれ以前の付き合いが長いから、今更ときめきも何もないし……全然、全然っラブラブとかでも無くて……」

両手を胸の前でブンブンと振りながら捲し立てる様にそう言っているマホを、さも面白そうに見ていた部下は、「あ……」と小さな声を上げて向かい合っているマホよりも後方に視線を置いた。
恥ずかしさと焦りで、その部下の様子には全く気付かず、マホは言葉を続ける。

「そもそもリヴァイって普段もあんな感じだしっ……優しいとかそんな感じでもなくて……たまに私も本当に付き合ってるのかって疑問になったり―…」
「おい、照れ隠しでもそこまで否定するな」

突如後方から耳元に入ってきた声と、肩にズシリとかかった重みに、ビクッとマホは体を硬直させた。
彼女と向き合っていた部下は、この状況に若干怖気づいた顏をしながらも、興味津々といった感じで瞳を見開いていた。
ギギギ……と油の切れた人形の様な動きで、首を後ろへと向けたマホは、バチッと間近で目が合った人物と不機嫌そうな顔に、頬を引き攣らせた。

「り、リヴァイ……何時から……」
「てめぇが愉快な演説をしていた時からだ」
「ゆ、愉快って……」

気付いてたなら教えてくれと、無言の訴えを前方にいる部下に向けるも後の祭りだ。
しかも部下はというと、マホの視線に臆する事も無く、瞳を煌めかせて彼女の肩を抱いているリヴァイを見ている。

「やっぱお似合いだなぁ……。良いなぁ。マホさん幸せそう……」
「この状況がどうして幸せに見えるの……」

部下の発言に解せぬといった様子で、力無く首を振ったマホに、更に部下は続ける。

「だって、マホさん、嬉しそうですし……」
「ほぅ……。観察力あるじゃねぇか」

感心した様に頷くリヴァイの言葉に、「うぅ……」と腑に落ちないといった感じの呻きがマホから漏れるのだった。

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