“こうなる”の意味と、今のこの状況に、トクトクと胸が変に期待をして高鳴って行く。いや、これはついさっき一瞬とはいえキスをしたからか―…。
グルグルと廻る思考に、追いすがる様に伸ばした手は、自然とリヴァイの髪に触れていた。
それを合図の様に、再びリヴァイの影が堕ちてきて、さっきよりも深く長い口付けがマホに降り注いできた。

今、リヴァイの唇が自分の唇に深く喰らい付いていて、彼の髪に触れていた手をギュッと握られて、それは、マホにとっては願っても無い展開で、もうこのまま溺れてしまいたい、と甘い疼きで胸奥が訴えていた。
その甘い誘惑を、自分の中にある激しい愛慕を、振り払う様に、マホは沈みそうになっていたベッドの上で、イヤイヤと体を捩った。

「んっ……、駄目、です。兵長っ……」

リヴァイの口付けから逃れ、やっとの事で出した声は、自分でも恥ずかしくなるぐらい艶めいている気がした。
スルリ……とリヴァイの指が、マホの唇をなぞる。
思わずそのまま咥えてしまいたくなる様な手付きで、視線で、刺激される官能に、頬が赤く染まる。

「その……だって、エレンがまだ扉の向こうに―…んっ……」

いるかもしれないのに……と言いかけた唇はまたしても強引な口付けに塞がれた。
チュッ、とワザとらしいぐらいのリップ音を響かせて唇を離して、リヴァイはクイッと眉を寄せてマホを睨む。

「エレンなら資料室の掃除に行ったはずだ。だが、もしまだ奴がまだソコに居たとして、何か不都合があるのか」
「不都合って……だって……」
「……お前とエレンが恋仲だとしたら、確かに都合が悪いな」

ツイ、と僅かに口角を上げたリヴァイの言葉に、マホは上体を少し起こしてブンブンと首を振った。

「ち、違います!!私は兵長が……―っ」

咄嗟に口を割って飛び出した言葉に、しまった、と慌てて両手で口を押さえてみても、今更出た言葉は引っ込まない。
背筋に冷や汗を感じて、狼狽えるマホを見つめるリヴァイの表情は、まるで全てお見通し、といった感じでニヤリと勝ち誇った風に笑っている。

口元を押さえている手首を、キュ、と掴まれ、それは大した力では無かったが、まるで巨人に掴み上げられたかの様にマホは身動き1つ取れなかった。
そんなマホを満足そうに見つめて、リヴァイは言う。

「“俺が”、何だよ?」

頭の中でチカチカと閃光が迸る感覚に、二、三度瞬きをして、ゆっくりとマホは口を開いた。

「……兵長が―……」





石畳の長い廊下の1つの扉の前を落ち着かない様子で行ったり来たりしているエレンの姿を見て、ゆっくりとペトラは彼の背後に近付いた。

「エーレーンー」

その声に、悪戯が見つかった子供の様にビクっと肩を震わせて、ソロソロとエレンは後ろを振り返る。

「……ペトラさん。あの……」

何か言いたげに口ごもっているエレンの目の前の扉を一瞥して、ペトラは可笑しそうに言う。

「マホが休んでる部屋の前で何してるの?覗き?」
「えっ!?違います!!……あ、いや、そうなのかな……?」

慌てて否定しながらも、徐々に語尾を弱めて深刻そうに首を捻るエレンに、ペトラは茶色い瞳をパチクリとさせて、不思議そうに彼を見つめた。

「エレン、貴方、まさか本当に覗きなんて……」
「わああっ!!違うんですよ!別に覗いたりはしてないです!ただ、マホさんが少し前にこの部屋の中に籠ってしまって、その後にリヴァイ兵長がやってきて部屋に入って行ってしまって……。最初は何か喋ってる声が聞こえてたんですけど、しばらくすると静かになったから、ちょっと気になって……」

フンフンと話を聞いていたペトラは、静かな扉に再び視線をやって、何やら嬉しそうに微笑んだ。

「ペトラ……さん?」

怪訝な表情のエレンの腕をグイッと引っ張って、ペトラはやはり嬉しそうにニンマリと笑う。

「兵長が居るなら大丈夫よ。ほら、2人が出て来るまでに掃除を終わらせるわよ!」
「えっ……」

まだ名残惜しそうにしながらも、ペトラにズルズルと引き摺られる形でエレンは扉から離されて行った。


エレンとペトラが離れて去って行った扉の中では、不満気に眉を寄せたリヴァイがベッドの上でマホを組み敷いて見下ろしていた。
リヴァイに馬乗りにされているマホはというと、シャツを第三ボタンまで外された状態で、真っ赤な顔で瞳を潤ませていた。
そんな彼女を見下ろして、ハァ……とリヴァイは遣る瀬無い溜息を吐いた。

「拒否んなよ、てめぇ……」
「だ、だって、そんな、無理です!!いつ誰かが来るかも分からないし、それにまだ業務時間……」

真っ赤な顔でブンブンと首を振ってみせるマホに、渋々ながらもリヴァイは彼女の腹の上から退くと、すぐ隣にボスン、と仰向けに寝転がった。

「……やっと、お前の気持ちが分かったのに」
「あ、あの、兵長……」
「生殺しもいいとこだ」
「へ、兵長!!」

マホの声色が少しだけ大きくなり、リヴァイは「何だ」と言いたげにチラリと横目で彼女を見遣った。
相変わらず真っ赤な顔で、不安そうに眉を下げて、マホはつい今しがた出した声とは比べものにならない程の小さな声でボソリと告げた。

「あ、あの……これって、兵長も私を想って下さってるって事なんでしょうか?それともこういう事をする相手は他にも沢山……」

不安と期待でフワフワとしているマホの口振りに、フン、とリヴァイは鼻を鳴らした。

「……お前、本部に戻ったら、何故お前にこの任務が託されたのかハンジに聞いてみろ」

それ以上はリヴァイからは何も聞き出せないのだろうという事を悟って、マホは胸の奥にモヤモヤとした感覚を抱きながらも、小さく頷いた。



「だってリヴァイはなかなか自分から行動しないからさ、ハンジさんが二人の恋路を取り持ってあげようと思ってね。え?だってマホもリヴァイが好きだったでしょ?分かり易過ぎだよ、二人とも」

というハンジの言葉をマホが耳にするのは、それから数時間後の事だった……。
/―END―
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