「マホさん!リヴァイ兵長!!」

リヴァイにエスコートされながら、食堂から繋がる中庭に出ると、ワァッという歓声と共に甘い花吹雪がそこかしこから舞い降りてきた。
姿が見えないと思っていた兵士達がズラリと集まった中庭は、普段の穏やかな佇まいとはガラリと雰囲気を変えて、祝祭ムードへとシフトチェンジしていた。
雪の様に舞う花吹雪は、中庭の緑の芝生に白い絨毯を引いていく。

「す……凄い……」

誰の顔も嬉しそうに微笑んでいる。
マホが夢見た幸せの溢れた空間だ。
隣に愛する人がいる事、それを祝福する人がいる事、その条件が揃わないと成り立たない空間だ。

「リヴァイは、部下に愛されてるね」

ポツリとマホが言えば、呆れた様にリヴァイが笑う。

「馬鹿か。愛されてるのはてめぇだろ」

二人がゆっくりと歩く前方に、背凭れに翼を型どった真っ白い2人掛けの椅子が用意されていて、周りの地面には赤やピンクのハートの形をした花弁がフワリフワリと落ちている。
早く早く、と椅子の周りで手招きしている104期生が、妙に頼もしくマホには見えた。

「この椅子は、俺とジャンが作ったんだぜ!!」

ヘヘンと腰に手を当てて言うコニーの頭には、赤とピンクの花の王冠が被されている。それを作ったのであろうサシャはミカサと共に、椅子の周りの花弁の具合を確認していて、彼女の首にも赤とピンクの花の首飾りがかかっている。
コニーとジャンが作ったという椅子は、リヴァイと2人で腰掛ければ、ミシ……と不安気な音を立てて、眉間に皺を寄せたリヴァイの手がマホを守る様に彼女の腰に廻った。
テクテクと歩いてきたアルミンが、マホ達の数b向かいに立ち、そこにエレンが三脚の台を置き、大切そうに写真機を抱えていたジャンが、その台の上に写真機を置いた。
その写真機をアルミンが覗き込む。
何か言いたげにリヴァイを見上げたマホの額に、リヴァイは軽く自分のこめかみ辺りをぶつけた。

「この3日で勉強して理解したらしいぞ。大した奴だ」
「え…………」
「どうしても、俺とお前の写真を撮りたかったんだと。」
「あ…………」

写真機を覗き込んでいたアルミンが、ニコリと笑って頷き、マホ達の方に向いて片手を上げた。

「笑えよ………」
「り、リヴァイこそ、笑ってるの?」
「…………」

カタン、と音がして、2人の一瞬が写真機の中に収められた。



「うーーーーん……」

次の日、エルヴィンの計らいで休暇を取らされたリヴァイは、狭苦しい暗室の中で唸っているマホの手元の写真をヒョイと覗き込んだ。

「何だ。アルミンの腕前が不満だったか?」

そうリヴァイが聞けば、マホは大袈裟な程にブンブンと首を横に振った。

「ううん!寧ろ凄く上手!!構図もバランスも影の映し方も教科書のお手本みたいに完璧で、ちょっと自分が情けなくなるレベルなんだけど……」
「じゃぁ何を唸ってやがる」
「だって……私もリヴァイも表情が堅いんだもん……」
「……俺はいつも通りだろうが」

たった3日で写真機の扱いを覚えたというアルミンの腕は舌を巻くレベルなのだが、肝心の被写体は完全に撮られ慣れていない人の顏をしている。
リヴァイはいつも通りといえばいつも通りなのかもしれないが、三白眼の仏頂面にへの字に曲がった口元は静止画になってしまうと全く愛想が無い。その隣に並ぶマホは、背筋も首もピンと伸びてニコリともせず真っ直ぐに前を見つめているので、無機質な人形の様で気味悪くすら思える。

「こ……これ、家に飾る……?」

恐る恐るマホが聞けば、リヴァイはおもむろに眉を寄せた。

「……お前の仕事に文句はねぇが、写真を撮られるというのは余り良い気分にはならねぇな」
「う……ん。私も、もう撮られるのは嫌かも」

ふわふわひらひらに包まれた花嫁姿の自分も、幸せそうに寄り添う二人も、マホが憧れていたモノとはかけ離れていたけれど、今隣に居る存在だけはずっと変わらず、マホの思い描く未来に連れ立ってくれるのだろう。
これからも増え続ける大切な一時は、心の中の写真に収めていこう――……。
/―END―
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