言いたいことを一方的に告げ、COMMの通信を切った。
セツナ卿に魔力を供給し、もはや意識を保つのもやっとの中での通信。向こうの声はほとんど聞こえなかったが、いくら彼らでも不思議に思っただろう。
ドサッと後ろで音がした。また一人、候補生が倒れたのがわかる。数はもう最初の半分も残っていない。残っている者もそう時間を待たずに同じ道を辿る。もちろん、自分も。

秘匿大軍神の召喚補佐とはすなわちそういうことなのだ。

先程0組に通信を繋げ、彼らに伝えた言葉。自分の存在と同じく忘れられるのはわかってる。それでも伝えておきたかったのは心残りを無くしたかったという自分の本心。こんな時にしか打ち明けられない自分はなるほど不器用なのかもしれない。

魔力も底を尽きてきたようで気を抜くと倒れてしまう。残された時間はもう無い。視界が揺らぐ。
もう思い残すことなど―――――

「まだ、あるな…」

頭をよぎった顔に薄く口元が緩み、もはやほとんど自由のきかない身体で再びCOMMを操作し通信を試みた。


クリスタリウム。多くの蔵書が保管されているそこの本棚の一つ。その裏にある自身の研究室にカヅサはいた。
彼は研究者という立場のため、戦闘が始まっても特にやることもない。室内でほとんど趣味となってる研究についてあれこれと思考を巡らせていた。考えてる間歩き回る癖は相変わらず。
そこに彼のCOMMが電子音をあげる。

「…ん?何だろう」

彼は所謂変人という部類であり、彼に好き好んでコンタクトを取ろうなんて物好きはそうそういない。カヅサ自身もその方が面倒くさくないので気にしてはいない。自分の周りにいる数人で満足している。
そんな彼のCOMMがこんな時に鳴ったのだ。気になりつつもCOMMを繋げる。
相手はよく知る人物からだった。

「……クラサメくん?」

はて、彼は今任務中ではなかったか。しかも前線に出るとも言ってたような。
流石に疑問を抱きつつも、取らないわけにはいかない。

「もしもし?」


戦闘中とは思えない青空を見上げ、エミナは溜め息をついた。戦闘地域は魔導院の遥か遠く。ここには音どころか気配すらない。院内は院内で慌ただしく行き交う人々や通信で戦闘を感じるのだが、彼女がいるテラスは別だった。
エミナもクラサメと同じ指揮隊長という立場ではあるが受け持つクラスが無いため、基本的には一人の武官である。呼ばれればすぐ動けるようにはし、ここで考え事をしてることが多かった。
この戦争のこと、そして自分の立場のこと…そんな真面目なことから、欲しい服や家具など趣味のことまで。
今は勿論この戦闘のことではあるが。

「あれ?」

COMMの通信に気付き、その相手を見て驚く。てっきり司令部からだと思ってたのに。
そこに表示されていたのはカヅサと同じ人物だった。

「どうしたのかな」

無論彼女も今日のクラサメのことは聞いていた。もしかしたら救援要請かもしれない。それも司令部を通す余裕もないような。

「はい、なにかな?」


通信状況が酷くノイズが入る中二人の声が聞こえた。
同期であり、今もこんな自分と交友関係を続けてくれた二人。あの時からずっと感謝してばかりだ。

「おーい、どうしたんだい?」

「援護が欲しいなら今すぐ行けるよ?」

何も答えない自分に更に不信感を覚えたらしい二人はどんどん呼び掛けてくる。実際、もう声を出すのもツラいので答えようにも答えられない。
それでも、ただ一言。
自分を支えてきてくれた友人達に。

「………ありがとう」

感謝の言葉を。
こんな時にしか言えないけれど。
一番楽しかったあの時を過ごした友人達へ。
今この瞬間にしか存在しない感謝の言葉を。

限界だ。
セツナ卿に集まる強大な魔力の影響で通信は途切れた。そろそろなのだろう。

朱雀の未来のために。

大切な人達のために。


最後の力を振り絞った。




(クラサメくん?今なんて…)
(…切れちゃった…。ありがとうって言った気がするけど…)




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