※死ネタ注意(大事な事なのでry)


カリカリカリ。
静かな教室には私の走らせるペンの音が響く。文字を書く音と言うのはそれほど大きくは無いのにここまで響き渡るのは、打ち消し合う他の音も、吸収するほどの物質も存在しないからだ。
カリカリカリ。
そんな中で私はひたすらペンを走らせている。ただただ知識を植え付けていた。山のように積んである本を一冊、また一冊と手に取って、それを自分の知識としていく。パラパラとページを捲る音も、ペンの音と同様にこの教室に響き渡る。
いつからこうしているのだったか。もう覚えてない。横に分けて置いてある本の内容は覚えているのに、どうしても思い出せない。どうでもいいのかもしれない。そういえば、かつて私には兄弟と言える仲間達がいました。クラスメイトも担任も確かいました。しかしそんな人達がいた気がすると言う程度でした。覚えていない。これもまたどうでもいいのかもしれない。今の私はこうして本に書かれている膨大な知識を自分のものにすること以外興味はなかった。世界が戦火に包まれてようが、滅亡を迎えようとしてようが、私の中では知識欲に勝ることではないのです。離れた所へ投げ捨てられているCOMMは、もう鳴ることは無かった。前は任務任務と煩く鳴っていたのだけれど、ずっと無視していたらピタリと鳴らなくなった。応答しない私を役立たずと切り捨てたのか、任務を回してた軍本部が滅んだのか、それもまた私の興味のないことでした。
ああ、そんなことを考えていたら手が止まっていました。私はまたカリカリと手を進めた。私は書いて覚える派なのです。本を読み、それを自分なりに解釈し、内容をまとめ、手を動かす。誰もいない教室で、そうして私は過ごしていた。
……誰もいない教室?
再び音が止まった。自分の思考に一つの疑問を見つけたからだ。
誰もいないのなら、私はなんなのでしょう。
自分以外、という言葉を足すだけでその疑問は解決される。けれど、私はそれを安っぽい答えだと思った。
ならば自分の求める答えを探せばいい。その為にこれだけの本を読んだのだ。身につけた知識を使い、私はああでもないこうでもないと思考を巡らせた。
最初は知識を活かせることにどこか喜びを覚えていたものの、次第にそれは薄まっていった。どうにも私の求める答えが出ないのです。なぜなら私の感覚はとっくに麻痺していました。どんな結論も気に入らなくてすぐに破棄し、また新たに考える。それを幾度も幾度も繰り返した。
そうして私は一つの結論を導き出しました。
私もいなくなればいいのです。
そうすれば、本当に誰もいない教室になるのです。
パズルのピースがやっとはまった気がして、とてつもない達成感を覚えた。早速私は意気揚々と行動に移します。久し振りに椅子から立ち上がると、なまっていた身体がとても重く感じた。骨はパキリと音をたてる。それでも昂揚感は失われることは無かった。魔力を使って矢を呼び出す。懐かしい感触と同時に手の中に矢が一本。弓は要らない、使わないから。
鏃を自らの胸へ向ける。まだ読み終わってない本は沢山あるけれど、もうどうでもよかった。今の私の興味の対象ではないものに未練など覚えるわけもない。それは命も同じだった。
さあ、これで解決だ。正しい表現となるのだ。
私は躊躇うことなくそれを一気に胸へ突き刺した。


(あの日、マザーが突然いなくなった日、思い出せばあれがきっかけでした)
(マザーがいなくなれば私達も死んでいく。未熟な私達は一人また一人と死んでいった)
(そして最後に残ったのが私でした)
(一人残されたその日から私はどんどん狂っていったのです)



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