任務を成功させ戦場から魔導院へ帰還すると、エースはいつも似たような光景を目にする。 泣き止まない者、生気を失った顔をしている者。失敗した訳でも無いのにいつだってそんな暗い雰囲気を纏う者達がいた。勿論任務が終わったと達成感に満ちた者や帰還早々遊ぶ予定を立てる者、そんな切り替え早くさっさと平和な時間へと溶け込んで行く者達もいる。むしろこちらが大多数だ。けれど、エースの目に止まるのはいつだって悲しんでいる彼等だった。 傍を通りすぎる度に思う。 ああ、この人達はこの作戦でなくしたんだ。大切な人を、大切な思い出を。 どんな作戦でも死傷者が出るのが現実で、先のような領土を賭けた作戦はとかくその数字が大きくなる。それに伴い仲間を失う確率も必然と高くなる。 確かに候補生は年齢的に魔力は強く、戦力としては十分だ。けれど精神面ではどうだろうか。クリスタルの恩恵により与えられる忘却は、時として心に痛みを残す。若さ故に成熟しきっていない精神は、その失う辛さに潰れてもおかしくない。 (段々と自分の中が空っぽになっていく感覚は、きっと、怖い) これはあくまでエースの推測だ。何故ならエースは彼等に共感など出来ないから。0組は14人誰一人欠く事が無く、どんな過酷な任務を遂行しようが、他の組と違い日常の景色は変わらない。エースはチョコボ牧場に通い、デュースは娯楽として笛を吹く。トレイはクリスタリウムに入り浸り、ケイトは院内中の細かい噂を集め、シンクはモーグリとのんびり会話。サイスは闘技場で腕を磨き、セブンは他組の候補生から頭を下げられ、エイトは独自の基礎練習をこなし、ナインは再提出のレポートに悪戦苦闘。ジャックはリフレッシュルームの新メニューを試し、クイーンはファントマについて研究を進め、キングは武器の確認を怠らない。マキナはレムと共に困っている誰かの依頼を受け走り回る。そんな日々。 エース達にとって当然の環境はまこと恵まれているのだと悲しむ彼等は教えてくれる。ただ漠然とそれを甘受している訳では無く、相応の働きもしているのだけれど。実力と、そしてアレシアの力。0組と彼等との差はこうも大きい。 (僕達はあんな想いとは無縁だ) 変わらない顔ぶれ、変わらない記憶。その安定を失うことなく、エース達はこれからも戦場へ赴き、そして帰還するだろう。 未だ啜り泣く者の横を通り抜ける。怖いよ、と彼は呟いていた。きっと彼の感じている恐怖はエースの知っているものではない。知りたくもない。もうこんなの嫌だよと頭を抱えてうずくまる姿を見て、可哀想だとただ思った。 自分達は彼等とは違う。特別なんだ。 そう思い知らされる光景は、エースの想いを強くする。 自分達は成し遂げよう。 いつか争いの終結する未来まで、誰も、何も、なくさずに。 (戦い抜くんだ、0組全員で) そうして、明日さえ分からないこの世界で、小さな決意がまた一つ灯った。 (ねぇ、マザー。僕の目指したものは正しかったのかな) ←→ 戻る ×
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