藍色のマントと朱色のマント。
マキナは今その2つを両手に持っていた。左手の藍色は今までつけていたもの、右手の朱色はこれからつけるもの、だ。
これからマキナは2組では無く、あの0組の一人となる。
喜ばしいことなのに、マキナの顔は晴れきってはいなかった。

(……ただクラスを移動するだけで遠くに行くわけじゃないんだけどな)

自分自身に苦笑する。
2組に未練が無いと言えば嘘になる。共に過ごした仲間達はかけがえの無いもので、気心知れた彼等と離れるのはやはり寂しいものだった。それに、自分達はアギト候補生で、しかもこの戦時下だ。少しの別れが今生の別れにもなりうる。
こんな小さなことさえ深く考え決断を鈍らせる優柔不断さは悪い癖だ。

「どうしたの、マキナ?」

声をかけてきたのはレムだった。彼女もマキナと同じく0組へ異動する。既に朱色のマントを身に付けているレムはマキナが二色のマントを持っているのに気付き何か納得したようだった。幼なじみだからか分からないが、こういう所でレムに隠し事は出来ないなと思う。

「行くのやめる?」
「まさか。折角0組に入れるチャンスなんだ、退くわけにはいかないよ」

少しだけ意地悪く尋ねるレムにマキナが軽く笑いながら肩を竦める。

「そうだよね、あの0組だもん。幻だと思ってたら本当に存在して、しかも私達が編入出来るなんて、今でも信じられないよ」

噂話には大抵尾鰭が付き大袈裟になっていくが、0組だけは違った。先日の解放戦でその強さを誰もが実感したはずだ。
そんな彼等と肩を並べて戦える。話を聞いてレムと二人で驚いた。同時にマキナの中である想いが強くなった。向上心と言えば聞こえは良いが、それは力への渇望。
そうだ、オレは彼等のように強くなりたい。朱雀を、大切な人を、この手で守りたい。その為に―――

「夢じゃないのはこのマントが証明してくれてるさ」

言って朱いマントをバサリと羽織り、グッと拳を作り気合いを入れる。
その様子にレムは満足そうに肯定して微笑んだ。マキナの優しさも好きだけど、目標へ突き進む姿も眩しくてレムは好きだった。どっちもマキナらしいから。

「さあ、行こう、レム」
「うん。頑張ろうね、マキナ」

朱を纏った二人は、これから共に過ごすクラスメイトのいる教室へと歩き出した。
―――その為に、オレは前へ進む。




(あ、その前に2組のマント部屋に戻してくる!)
(うん、それがいいよ)



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