エイトの武器は拳。
武器を使うよりもリスクの高い戦い方を選んだのは自分自身だ。人の命を簡単に奪いたくはない、というエイトらしい考え。
その戦い方ゆえ誰よりも戦いというものをしっかりと感じている。敵を倒したあの瞬間。拳に残る感触。…これでいい。
命を奪った相手のことを痛みで覚える。彼だから言える言葉だった。

その拳は今、エイトの目の前でへらへらと笑ってるジャックの手の中にある。
一人で歩いてたところを見つけたジャックが「エイトはっけ〜ん」と近寄って来たのは少し前。エイトがそれに返事をし彼を迎えると、ジャックは少し考えてからエイトの右手を取った。彼の考えがよく分かんないまま好きなようにさせてると、ジャックは自身の両手でエイトの手をぎゅーっと握ったのだった。

「…楽しいか?」

どうにも離す気配のないジャックに気になって問いかけた。彼に包まれている手が最初より暖かくなっている。嫌というわけではないけれど、いつまでこうしてるつもりなのだろうか。
聞かれたジャックは「楽しいよ〜」と間伸びした声で答えた。

「エイトってさ〜、拳が痛みを覚えてるって言ってたよね〜」

それがどうかしたのか。
そう思ったエイトにまだ笑えるのかと思う程に笑いかけてくる。

「だったらさぁ、こうやったら僕の暖かさも覚えてくれるのかな〜って。温もりってやつ?」

痛いのばっかじゃ嫌だもんね〜、と続ける。
さっきから何をやっているのかと思えば。気楽に前向きに生きている彼らしい考え方だ。
そう、拳が覚えてくれるのはなにも痛みというマイナスだけじゃない。この右手の暖かさだって。

「ああ、覚えておくよ」

微笑みながら答えてあげる。
聞いたジャックは満足そうな顔をし、「約束ー!」と言いながらエイトの右手を包む手の力を強めた。

暖かさを覚えてくれ、なんて今まで言われたことは無かったけれど、こういうのもいいな。そう思った。
まあ、痛みを覚えてくれとも言われたことないけどな。

右手に感じる熱が心地よかった。




(さて、リフレでも行くか?)
(え、なんで〜?)
(暇で暇で人肌恋しかったんだろう)
(すごーい、よく分かったね〜)
(お前の性格を考えればな)




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