レムがそれはそれは楽しそうに「チョコボがいっぱい孵ったんだって!」と教えてくれたので訪れてみたチョコボ農場はマキナの予想を遙かに越えた数の雛チョコボで溢れていた。まだ雛なので鳴き声がうるさいということはないが、これは騒がしいという表現が合うんだろうな、と思った。ほら、あそこなんか雛チョコボの山が出来てるよ。
マキナが呆気に取られて立ちすくんでいると、彼の存在に気付いたチョコボ達がわらわらと群がって来た。

「え、うわあっ!?」

慌てて逃げようとして足を上げたがすでに周りはチョコボだらけ。生まれたばかりの小鳥達を踏むわけにもいかずどうしようかと思ってるマキナへチョコボ達は容赦なく飛びかかる。雛とは言え只でさえ片足という不安定なバランスのところに数が来ると流石に耐えきれなかった。
そのまま地面に倒れると更に数が乗ってきて、あっという間にチョコボに制覇されてしまった。自分の身体に乗り自由に動き回るチョコボ達を見て、マキナは苦笑した。チョコボは好きだから別にこの状態が嫌な訳ではない。

「やっぱり可愛いなぁ…ん?」

上半身を起こし、己の周りにいる彼等を観察してると、こちらへ来たせいでさっき見かけたチョコボ山(仮称)が無くなっていた。しかもその場所からは、まだ半分埋もれているものの一人の少年が顔を出していた。

「エース?何やってるんだ、そんなところで」
「…チョコボに埋もれてたんだ」

なんで埋まってたのか聞いたつもりだったが、まだチョコボを頭に乗せたままのエースはそう答えた。
ただ、その顔はいつも教室で見るよりも穏やかで、彼に対して少し壁を感じていたマキナは珍しいものを見たような気分になった。

(本当にチョコボが好きなんだ)

前に聞いた覚えがある。
そんなことを考えながら眺めているとエースが眉をひそめた。あまりにもジロジロ見ていたのでそれについて何か言われるのかと思っていたら、彼が指摘したのは別のことだった。

「なんで笑ってるんだ」

どうやらマキナが自分を見て笑ってるのが気になったらしい。笑ってる、というか自然に微笑んでしまっただけなのだが。
それはともかく、言われたマキナは一瞬驚いた顔をし、それから「そりゃあ笑うよ」と、更に笑顔を浮かべた。

「こんなにチョコボまみれになってるクラスメイトを見たらな」

そう言ってやると、今度はエースが笑い出した。

「それじゃあ、僕だって同じだぞ」

言って笑いかけてくるエースが、いつもよりなんだか子供っぽく見えた。
こうやって年相応に笑って、雛チョコボに囲まれてるとなんかこう…

「かわいいな」
「は?」

こぼれた一言にエースが疑問をぶつけるとマキナはひとりで「うんうん」と頷き、続けた。

「そうしてるとそのチョコボ達の中に混じってても違和感ない」

ナインみたいな髪型の方がもっと違和感ないんだろうけど、と意味の分からないことを話すクラスメイトにエースは流石に呆れてしまった。
呆れて、また笑った。


気付けば飼育係のオオバネが上手く雛達を誘導し始め、さっきまでうじゃうじゃといたのが嘘のようにすっきりとした。
解放された二人はそのまま魔導院へと戻る為魔方陣へと足を向けた。

「またあいつらが成長した頃に来ような」
「ああ」

その時はレムも連れてこよう、と一人言のように言うマキナの隣でエースが少し真面目な顔でぽつりと呟いた。

「…この増え方だと、農場どころか魔導院がチョコボで溢れそうだな…」

杞憂に終わって欲しいそれは果たしてどうなることか。


(あ、おかえり、マキナ)
(ただいま。凄い数だったな。想像以上だったよ)
(あの子達がみんな大人になって卵を産んだらもっと増えちゃうね)
(はっ…!そう言われると…!)
(マキナ、もしかして気付いてなかったの?)
(雛チョコボに和んでたらつい…)




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