あなたに届け どうして簡単に好きって言えないんだろう。どうして素直に好きって言えないんだろう。 何度問いかけても返って来なかった答えが、今解った気がした。 「土砂降りだ…」 ポツリと、誰に言うわけでもなく呟く。秘書である波江さんは、所用でお休み。つまり、この場所には俺だけしか居ない。 だんだんと強まっていく雨を見ながら、独り言を呟いた。 「届け」 自分でも驚くほどか細い声だった。窓を打ち付ける雨の音にかき消されて、何も聞こえていなかったかもしれない。 それでも言った。誰にも届いていないかもしれないけど。 ―――それでも、「届け」と。 「もしもし」 「波江さん? 今から来れるかな 「今日は休みを貰ったはずよ」 「うん。そうだけど…」 「…給料に上乗せしてくれるならいいわよ」 「勿論給料に上乗せしておくよ」 「で? いつまで居ればいいの? 泊まりとかだったら刺すわよ」 「まさか。…そうだね…」 「この雨が止むまで、居てくれないかな」 End. |