02 少年よ、大志を抱け
「遂に明日だね」
心操を筆頭とした一部普通科が宣戦布告をして約二週間が経った。
雄英の体育祭は国の一大イベントでもある為、緊張する者ややる気に満ち溢れている者が多いように見える。まあ、それはヒーロー科に限った話であって、そんな普通科の生徒はごく僅かだが。
そんな“ごく僅か”に含まれる生徒、久治木と心操はと言うとのんびりと話しながらスナック菓子を貪っていた。
「良いのかよ、久治木」
「なにが?」
「何がって……個性、鍛えたりしないのかよ」
「それ言ったら人使もじゃん」
けらけらと笑う久治木に、心操は溜息をつく。
この前とはまるで立場が逆だが、当事者である久治木灯は全く気にしてないように見える。現に今、「これ美味しいんだよねー」と新しいスナック菓子の袋を開けている。
「私も人使も、一人じゃ鍛えれない個性でしょ」
チョコがコーティングされたプレッツェルをびしぃっと心操の前に突き出した久治木はそう言った。
久治木の発言は確かに事実を言い当てていた。
“誰かを”治癒する久治木灯。
“誰かを”洗脳する心操人使。
どちらも相手が居た上で使用できる個性である。
「だから、俺が付き合うって言ってるだろ」
「んー、それは遠慮しておく」
相手を必要としているならば、互いをトレーニング相手に選べば良いものの、久治木は毎度心操からの誘いを断っている。
「人使の相手をする分には良いけどさ。私の相手をしてもらうのは気が引けるし、何よりリスクが高すぎる」
その理由は“心操への負担が大きすぎるから”
久治木の個性である「治癒」は、リカバリーガールのもののように治癒力を活性化することが主ではないが、体力を激しく消耗したり超回復を繰り返せば体に良くないことは明白である。
彼女はそこを案じて誘いを断っているわけだが、心操はどうにも納得がいかない。
「だからってーーー
「それに、勝つ算段は立ててあるんでしょ?」
「!」
「人使の策なら大丈夫っしょ」
そして、もう一つ理由は“心操を信じているから”
同じ目標を掲げている者だから。熱い闘志を秘めている彼だから。久治木は心操を信じ、その策に乗ろうとしていた。
「だからさ。一緒にヒーロー科、行こう」
ぱきっと折れた小気味好いプレッツェルを咥えた久治木は、そう言ってにっと笑ってみせた。
彼らの運命の時は、すぐそこまで迫っている。