ただの天敵


エメザレは二号寮の長椅子で横になっていた。宴会までしばらくの時間がある。少し寝ておけば次の日の朝に響くことは少なくなるので、とくに用がなければ、こうして長椅子で仮眠と取ることにしていた。

行儀は悪いが、二号寮の自分の部屋には戻りたくなかった。ルームメイトになった少年は初日に「どうして自分がエメザレと同じ部屋なのか」とエメザレに怒ってきた。「じゃあ出てくよ」と言って部屋を飛び出して以来、物を取りに帰る以外は、ほとんど帰っていない。べつにそこまで困らなかった。
エメザレはどこでも眠ることができたからだ。床でも眠れるし、長椅子で寝れれば充分だった。

エメザレは廊下側に背を向けて寝ていたが、背後に気配を感じて、緩やかな眠気から覚めた。
誰だろう、とは思ったが相手をするのが面倒だった。背後の誰かがエメザレを喜ばせてくれるとは到底思えない。
エメザレは寝たフリをすることにしたが、気配はどこへも行かない。背中など見つめてなにか楽しいのだろうか。いい加減、起きようかと思いかけた時、尻を思い切り撫でられた。

「うわぁ!」

エメザレは驚いて飛び起きた。振り向くとミレーゼンの顔がすぐ近くにあった。
まあ、いきなり尻を触ってくるような変態はミレーゼンくらいしかいないが……。

「お尻触んないでよ」

しつこく尻を撫で続けるミレーゼンの手を払いのけて、エメザレは言った。

「尻なんて向けて寝てるほうが悪い」

ミレーゼンはドアップで攻めてくる。

「君に向けて寝てたわけじゃないよ。それに顔向けて寝てたって、どうせ同じようなこと言うんでしょ」
「こんなとこで寝るなら、俺の部屋で寝ろよ」

ミレーゼンはエメザレを引っ張ったが、エメザレは抵抗した。

「嫌だよ。下心しか見えないし」
「いいじゃないか。お前の尻を眺めてたら、なんだかムラムラしてきたんだよ」

だが、揉み合っているうちに、結局ミレーゼンに押し倒されるような格好になってしまった。
ミレーゼンの攻め方は激しい。一番疲れるのはミレーゼンの相手だ。まだシマのほうがいい。サイズはシマのほうが大きいが、ノーマルプレイなので身体に優しい。

「そんなん知らないよ。だいたいミレーゼンは僕と毎日やってるし、今日だってあと二時間もすればやれるじゃん」
「俺は今やりたいんだよ。やらせろ」

ミレーゼンはエメザレのズボンの中に手を入れてきた。
二人がもみ合うその横を、丁度、誰かが通り過ぎた。誰だか知らないが、うわっ…というような顔が見えて、やるせない気分になった。

「嫌ってば!ここ廊下だよ」
「俺はべつにどこだってやれるから問題ない。早くケツ出せ。突っ込みたい」
「君の事情に付き合ってらんないよ!放して」

エメザレが言うと、ほんの少しミレーゼンは力を緩めた。

「ここでやられるのが嫌なら、俺の部屋に来いよ」
「やだ」
「変なところで強情だなぁ。ま、そういうところが好きなんだけど」

ミレーゼンは綺麗な顔を歪ませた。本当にやる気だ。勘弁してほしい。やったからといって傷つくわけではないが、心の底からだるいのだ。

「あれ? あ、ミレベンゼだ!」

エメザレは驚いてみせた。

「え、え? どこだよ」

ミレーゼンは慌ててエメザレから飛びのくと周囲をキョロキョロと見渡した。

「あーあ。ミレーゼンが僕のこと押し倒してるのを見て、ショックだったんじゃない。走ってどっか行っちゃった」
「うおおおおおお!!ミレベンゼぇぇぇぇぇぇ!!!誤解だ!誤解なんだ!!」

そんなことを半狂乱で叫びながらミレーゼンは走り去った。
エメザレはそんなミレーゼンの背中を、冷たい視線で見送ると、また長椅子に身体を
横たえた。
あの変態をどうにかしてくれ。
実は毎日のようにエルドにそう祈っていたが、その願いが叶えられる気配は全くなさそうだ。そんなエルドがエメザレは嫌いだと思った。


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絶対この後、嘘だと知ったミレーゼンにお仕置きされるだろうな……笑
この二人書くの楽しい!

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