ミレーゼンの秘密


「ねー、兄貴。聞きたいことがあるんだけど」

 ミレベンゼが唐突に部屋に入ってきたのでミレーゼンは慌てた。ミレーゼンは小説を書いていた。しかも男女のエロ小説だった。

「なんだよ」

 下っ端であれば、恥かしさのあまりぶん殴っていたところだったが、可愛い可愛いミレベンゼだったので我慢し、笑いかけた。

 ミレーゼンは、弟のミレベンゼをある意味で危険なほど溺愛していた。どれほどの溺愛っぷりかというと、ミレベンゼのチン毛が目に突き刺さっても少しも痛くないほどだった。

「あのさ、突然気になったんだけど、シマ先輩とエメザレって付き合ってたの? シマ先輩の部屋にエメザレが入ってくとこ、何度か見たことあるんだけど、あれってあれ?」

「あれはしただろうけど、付き合ってんのかは微妙だな。まずあの人に付き合うという概念があるのかが謎だ」

 ミレベンゼはドアを開け放ったまま、ドア枠に寄りかかっている。小説の存在には気付いていない。ミレーゼンは書いていたエロ小説をばれないように自然に、そっと机の引き出しの中へしまった。

「でもシマ先輩が、自分の部屋に誰か入れるのって珍しくないか?」

「ゆっくり二人きりでしたかったんだろ。いやー恐ろしい。あの人と部屋で二人きりとか、俺だったら絶対に嫌だね。どんな変態プレイを強要されるやら」

 想像してミレーゼンは身震いした。ただの妄想だが、シマの逸物にはトゲとかが生えているような気がした。もちろんそんなわけはないが。

「あんたも充分変態だろうが……。眼球プレイは不評だぞ。あと淫語がやかましい」

「プレイの駄目だしすんなよ。お前は監督か」

「エメザレがいなくなってさ、シマ先輩も寂しいとか思うのかな」

 ミレベンゼは急にしんみりした口調で言った。
 エメザレは今日の朝、唐突に一号隊へ転属命令が出て、いなくなった。ミレーゼン的にはどうでもよかったが、ミレベンゼは気にしているらしい。

「そんな乙女なあの人、気持ち悪いだろうが。だいたいあの人、そんなエメザレのこと好きでもないだろ」

「え、そうなのか。じゃ、普通に身体目当てか……。にしても好きでもないのに、顔の事件のことよく許したな。意外にも寛大なのか。シマ先輩は」

「いや、許してないよ。全然全く許してない。あの人はエメザレのことを、こう……なんと言えばいいのか、うまく説明できないな。そうだなぁ、強いて言うなら感謝して憎んでるみたいな?」

「なんだそれ。てか、兄貴ってなんでシマ先輩の気持ちわかんの?」

 ミレーゼンはシマの考えていることがわかった。わかるというより、そんな気がするというのが正確だ。おそらく小説を書くのが趣味だからだろう。人間観察がくせになってしまっている。だが誰にも言えない。エロ小説を書いていることは極秘なのだ。

「知らん。が、たぶん超能力だろう」

「どうせ変態でカルトなら、もっとすごそうな能力に目覚めろよ」

「お前、さっきから所々お兄ちゃんに向かって辛辣だぞ!」

「お兄ちゃん言うな! 変態だし色々キモいんだよ! 弟離れしろ!」

「俺は永遠にお前から離れないぞ、弟よ!」

 発作的に溢れた愛で可愛い弟を抱擁しようと、ミレーゼンは駆け寄った。

「そういう変態的行為は宴会で発揮しろ!」

 が、ミレベンゼの一喝とともに、二人を隔てる冷酷なる扉が勢いよく現れた。ミレーゼンは見事に扉に激突し顔面を強打した。

「家族愛なのに……愛って辛い……」

 そんなことを呟き、遠ざかるミレベンゼの足音にひっそり涙しながら、今の台詞小説に使えないかなと考えている、エロ作家ミレーゼンなのだった。

完。

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