top text
帝立オペレッタ11(愛国の娘)
彼らはうごめくのを止め、いっせいにエスラールを見た。
そこには異様な光景が広がっている。群がりの隙間から見えるエメザレはおそらく裸だったが、男たちは誰一人として服を脱いでない。たぶん犯しているのではない。ただ噛んでいるのだ。鬱血痕をつけるためだけに、わざわざ噛んでいる。
なんだか寒気がした。猟奇的な気がして気持ちが悪かった。理解できない気味の悪さだ。
「なに、してんだ……よ?」
力の抜けたような、変な声が出た。
「……エスラール?」
弱々しいがはっきりしたエメザレの声が聞こえ、エメザレがまだ正気なことがわかって、エスラールは少しだけ安堵した。
「印さ」
エメザレを噛んでいた一人が振り返り、エスラールに歩み寄ってくる。
「印つけてんだよ。ロイヤルファミリーが使用してるって印。一目瞭然だろ?」
その男はミレベンゼに似ていた。全体的な雰囲気もそうだが顔の造形がとても似ている。前髪は短く、睫毛の長い、意外なほど綺麗な目をしていたが、広くて手薄い特徴的な口の形がそっくりだ。もしかしたら兄弟なのかもしれない。しかし、ミレベンゼのような卑屈っぽさがない。自信に満ち溢れていて、高圧的なのだ。
「し、印……?」
「エスラールって、エメザレと同じ部屋になった奴か。お前、バカか。一人でなに粋がってんだよ。ついでにそのふざけた首はなんだ? 死にてーのか」
男はエスラールのすぐ近くで止まると、エスラールの首の傾きに合わせて自らも首を傾け嘲笑した。エメザレに群がっていた男達は、エメザレを放り、今度はエスラールを取囲む。
「エスラール。なんで来たんだよ……なんでよ……」
ぽつんと取り残されたように、床に座り込んでいるエメザレの姿が見えた。そしてエメザレの後ろからは、さらに複数の人影も出現した。
少し離れたところにいる五人ほどの人影は、まるで彼らの行為を観覧するようにじっと立っている。その様子はどことなく超越的だ。彼らはロイヤルファミリーの最上位グループなのではないかと思った。
それにしても、一体、何人いるんだ。
厳しい現実に追い詰められて、エスラールは逆に冷静になってきた。そして毎度ながら自分の愚かさを呪った。
ぱっと数えただけでも十五人はいる。おそらくそれ以上いる。最悪二十人くらいいる。しかも相手は二号隊の成績上位者だ。いくらエスラールが強いといっても、一対二十では勝ち目はないし、ロイヤルファミリーの中には確実にエスラールよりも強い奴もいるだろう。
ほとばしる熱き心に任せて、後先を考えずに猛進してきてしまったが、なんの作戦も考えていなければ、味方もいない。その上、急ぎすぎて裸足だ。とどめにこの首とくれば、もう絶望的と言わずになんと言おう。
しかし全ては今更だ。引くわけにいかない。
「エメザレを返せ! エメザレは俺と一緒に一号寮に帰るんだ!」
エスラールは全力で怒鳴った。
「お前、暑苦しいんだよ。偽善ぶりやがって」
男は昨日のミレベンゼと同じようなことを言って顔をしかめ、エスラールの胸倉に掴みかかってきた。エスラールも負けじと男の胸倉を掴み返す。一対一なら負ける気はしないが、エスラールはもう十人以上に囲まれている。いっせいにかかってこられれば一瞬で負けが決まる。
「待って、ミレーゼン」
エメザレは自分が持ってきたであろう毛布を腰に巻きつけている。ミレーゼンは一応エメザレの方を振り返った。
「そいつ、僕の監視してるんだ。命令されて、それに従ってるだけの、ただのお人好しで頭の弱いロマンチストだ。だから、そのまま帰してやってよ……ミレーゼン、お願い」
「命令だかバカだかは知らねーが、俺はこのまま帰すつもりはない」
「違う! 俺は自分の意志で来たんだ。エメザレを助けたくて来たんだ。俺は逃げない。エメザレと一緒に帰るんだ!」
エスラールはエメザレに向かって叫んだ。
「もういいから逃げろ、エスラール! かっこつけてる場合じゃない! その変な首で戦ったら下手すれば死ぬよ!」
エメザレは焦った顔で、エスラールを取囲んでいる男達を器用にあしらいながら、すり抜けて走り寄ってきたが、逃げろと言われてもミレーゼンに制服を掴まれているし、もとから逃げる気もない。負けるだろうが、力の限り戦うしかない。
「俺は常に仲間のために死ぬ覚悟してんだよ! ここで死んでもエメザレを恨んだりしないから安心しろ!」
「お前、マジでなに言っちゃってんの。鳥肌が立つんだよ! そんな死にたきゃ殺してやるよ、今すぐにな!」
ミレーゼンの拳が振り上げられた。
「待て」
少し離れたところから冷静な声がした。大きな声ではなかったが、よく響く冷え冷えとした声だった。ミレーゼンはその声に従って、拳を下ろし、エスラールから手を放したので、エスラールもミレーゼンから手を放した。
声のした方向を見ると、最上位グループと思われる五人ほどの人影の更に奥から、一人の男が姿を現した。男の顔には見覚えがある。一度見たら忘れない、顔の右側に大きな傷がある男――シマだ。
場の空気が変わった。シマはゆっくりとエスラールに向かってくる。エスラールを取囲んでいた男たちは後ずさりするようにして、シマに道を開けた。
シマは比較的長身ではあるが、特別背が高いというわけではない。体躯もどちらかといえば細身で、体格としてはごく普通だ。だが、容赦という言葉を知らなさそうな、無慈悲さが過激なほど剥き出しなのだ。サイシャーンのように無意識に恐さがにじみ出ているのではない。意図的に周囲へ恐怖を与えるべく、オーラを完全武装している。
エスラールは本能的な恐怖を感じて、唾を飲み込んだ。足がすくんでいる。
ミレーゼンは後ろへ下がり、シマがエスラールの前に立った。たいした身長差でもないはずなのだが、圧倒的に大きいように感じてしまう。あまりの気迫に息苦しささえ覚えた。エメザレがエスラールの横に来たが、シマはエスラールだけを見ている。
このひとには絶対に勝てない。勝つためだけに生きていて、物事の限度を知らないのだ。殺されるかもしれない。
エスラールは心のどこかで死を覚悟した。
「お前、エメザレを連れて帰れ」
シマから放たれた意外な言葉を、エスラールは一瞬理解できなかった。シマの鋭い瞳をぼけっと見つめて言葉の意味を考えた。
「先輩……」
エスラールの横にいたエメザレが呟いた。顔からは血の気が引いている。
「どうしてですか? 副隊長、こいつ宴会の邪魔したんですよ?」
「黙れ」
ミレーゼンが不服とばかりにシマに言ったが、シマの一言で他にもなにか言いたそうだった口を閉じた。
「エメザレ、もう来なくていい。いや、来るな。お前はもう俺たちと関係ない」
「シマ先輩。いやだ」
エメザレは悲痛な声を出して、シマにすがるように抱きついた。まるで終焉間際の恋人のように見える。どういうことなのか、状況がわからない。
「お前の代わりなんてたくさんいる」
「先輩、先輩。捨てないで捨てないで捨てないで、僕のこと捨てないで。お願いします。捨てないで。僕以外のひとを抱かないで。誰かを殴るなら僕を殴って。僕だけを殴って。僕だけを抱いて」
「早く連れて行け」
シマはエメザレを引き離すと、エスラールに向かって突き飛ばした。
「宴会は終わりだ。今後のことは明日話し合う」
ロイヤルファミリーを見渡してシマは言い、背を向けると歩き出した。ロイヤルファミリーもシマに続く。
「エメザレ、帰ろう」
エスラールは多少戸惑いながらもエメザレの腕を引っ張った。だがエメザレは動こうとしない。
「先輩、どうしてですか? どうして僕を捨てるの? 先輩、シマ先輩!」
エメザレはシマの背中に向かって叫んだが、シマは振り向くこともなく、ロイヤルファミリーと共に二号寮の奥へと消えていった。
◆
「そんなにシマ先輩が好きだったのかよ?」
エメザレはベッドにもぐりこみ頭から毛布をかぶって、ずっとしくしくと泣き続けていた。一応、慰めの言葉もかけてみたのだが、あまり効果がなかった。放って寝てしまうのもなんだか可哀想な気がしたので、エスラールは自分のベッドに腰掛けて泣いているエメザレを見ていた。
「好きとか嫌いとか、そんな単純な気持ちじゃない」
嗚咽の入り混じった小さな声で言ってから、いっそうひどく泣き出した。
しかし、わからない。シマは昔からエメザレをいじめていたはずだ。そして、シマの顔に傷をつけたのもおそらくエメザレだ。どう考えてもロマンスは生まれそうにないのだが、それがなぜ、捨てるとか捨てないとか、そんな話になるのだろう。本人が言っていた通り、エメザレは超ド級のマゾで強姦されるのが好きなのだろうか。だとしたらなぜシマの顔を傷つけたりしたのか。
色々と問いただしたいとは思ったが、今はそんなことができる雰囲気でもない。気になって悶々としながらも、すすり泣くエメザレを見守るしかなかった。
しばらくそんな微妙な時間が続いたが、外から足音らしきものが聞こえて、エスラールはどきりとした。二号寮はさておき、一号寮はすっかり寝静まっているはずの時間帯だ。こんな真夜中に廊下を歩いている奴はまずいない。先程の二号寮での一件もある。もしかしたらロイヤルファミリーかもしれない。エメザレは足音に気付いていないのか、構わずに泣いているが、足音はだんだんとこの部屋に近付いてきている。エスラールは立ち上がって身構えた。
やがて足音は二〇二号室の前で止まり、ノックもなくドアが開いた。
「よお、偽善童貞」
暗くて顔はわからなかったが、台詞でそれがミレベンゼだとわかった。
「なんだお前か。なにしに来たんだよ」
エスラールは安堵のため息を吐いた。
「エメザレの寝間着と制服、届けてこいって。ないと困るだろう。さすがに素っ裸で訓練はなぁ」
それもそうだ。当初の目的を完全に忘却していた。ミレベンゼが来なければ、おそらく明日の朝まで気が付かなかっただろう。
ミレベンゼは部屋の中に入ってきて、エメザレの制服と寝間着を半分投げるようにしてエスラールに渡した。
「二号寮、大パニックだぞ」
エメザレのベッドのふくらみに向かってミレベンゼは話しかけた。
「そりゃそうだろうね」
毛布をかぶったまま、エメザレは力のない声で答える。
「なんでパニックなんだよ?」
「エメザレが犠牲者から外されたから、新しい犠牲者が選ばれるんだよ。それが誰になるのかって話」
「新しい犠牲者……」
予想だにしていなかった言葉に、エスラールは心が締め付けられた。
宴会自体がなくなったわけではないのだ。宴会は犠牲者を変えて続けられる。なんとも後味の悪い話だった。
「おい、まさかエメザレを助けて、それで話が終わるとでも思ってたのか? 本当におめでたい童貞だな。いや、あんたにしてみれば話は終わったようなもんか。もう関係ないしな。で、新しい犠牲者って、誰になるんだろうな、エメザレ?」
エスラールに適当な暴言を吐いてから、ミレベンゼはエメザレに聞いた。
「さぁ。ユドがいたら間違いなくユドだっただろうけど、いなくなっちゃったし、君も掃除係してるからね」
エメザレは毛布の中から出てくる気はないらしい。
「まぁ俺はな。犠牲者にはならなくてすむけど、コネで掃除係してるから非難はされるだろうな」
「え、掃除係って、そんなに偉いのか?」
「偉くはないけど、犠牲者の候補からは除外される。俺、睫毛長いんだよ。ほら」
ミレベンゼが長い前髪を上げると、睫毛の長い驚くほど綺麗な瞳が出てきた。目を隠しているときとは、かなり印象が違う。目を見せるのが恥かしいのか、ミレベンゼはまたすぐに前髪を下ろした。
「お前、なかなか美形だったんだな……」
「俺、成績よくないし、目がこんなんだから、兄貴がお前危ないよって。兄貴、ロイヤルファミリーなんだ。俺の能力、全部兄貴に吸い取られたらしくて、顔は似てるんだけど、頭も身体能力も雲泥の差でさ。だから兄貴が心配して、半強制的に俺を掃除係につけたんだよ。おかげで周囲の奴からは妬まれてるけどな」
淡々とした口調ではあったが、ミレーゼンに対する愛情が含まれているような気がした。きっと、とても大切な存在なのだろう。エスラールは家族というものを知らない。なんだがミレベンゼが羨ましかった。
「お前の兄貴って、もしかしてミレーゼン?」
「あれ、知ってんのか? あ、宴会の時に会ったのか。そう、そいつが俺の兄貴だよ。喧嘩っ早くて、変な性癖持ってるけど、いい兄貴なんだぞ。ちょっと鬱陶しいけどな。とにかく俺は事態が終息するまで、しばらく兄貴にかくまってもらうわ。じゃ、俺、帰るよ。あ、あとエスラール、首、お大事に」
「いてっ!」
ミレベンゼはエスラールの首を軽く叩き、逃げるように部屋から出ていった。
「エスラール、僕のしたこと怒ってるよね」
ミレベンゼが行ってすぐに、エメザレはしおらしい声で言った。少し落ち着いたのか、エメザレのすすり泣きはいつの間にか治まっていたが、ベッドの中で丸まったままだ。
「別に怒ってない。少し驚いたけど、たぶん嫌じゃなかったと思う」
「僕が謝ってるの、どちらかというと回し蹴りしてサロンに勝手に行ったことなんだけど……。もしかして、キスのほうが嫌だったの?」
確かに普通に考えれば、キスと回し蹴りなら、キスがどうこうより、まず回し蹴りされたことに腹を立てそうなものだ。しかしエスラールの中では、エメザレの冷たい唇の感触が、もげそうな首の痛みよりも深く印象に残っていた。
なんだか恥かしくなり、エスラールは少し焦った。
「え、ああ。そっか。あ、いや、だから、たぶん嫌じゃなかったって。回し蹴りも、そんな怒ってないよ。それどころじゃなかったってのもあるけど。それより俺が囲まれたとき、エメザレが助けようとしてくれて、俺、すごい嬉しかったよ」
「ねぇ、エスラールって女のひとが好きなの?」
なぜこのタイミングでこんな質問をするのか疑問に思ったが、今は別のことを考えていたいのかもしれない。
だが、エスラールにとって実はあまり答えたくない質問だった。はぐらしてしまいたかったのだが、エメザレの顔が真面目だったので、エスラールも少し真面目に考察した。
「わかんない。ヴィゼルが主催してる『童貞を異性に奉納しよう連盟』に加盟してるけど、本当の気持ちはよくわからない。だって、女のひとを近くで見たことないし、ほとんど実体を知らないわけだし、今のところ好きになりようがないからなぁ。ヴィゼルは女のひとのイメージに恋をしてるみたいだけど、俺はイメージに恋できないみたい。男の方が好きだとは思わないけど、周りには男しかいないし。だから今のところ、好きになる可能性は男のほうが高いんじゃないかな。ヴィゼルには内緒にしといてね」
「僕さ、僕……。今まで誰にも言ったことないんだけど、笑わないで聞いてくれる……?」
エメザレは消え入りそうなほど小さな声で言った。
「うん。笑わないよ」
「僕ね、生まれつき男が好きなんだ。環境とか関係なくて、恋愛の対象が元々男なんだよ。だってずっと前からね、物心がついたときからね、僕、なんか変だったんだ。なんとなく、自分が女のような気がしてならないんだ。もちろん男だってわかってるんだけど、男じゃないというか、男になりきれないというか。男である努力はそれなりにしてるよ。でも女性的な立場にいるほうが落ち着くんだ。だからさ、僕はひとより犯されることに抵抗がないんだよね。むしろ僕にとってはそっちのほうが自然なんだ。だからプライドもそんなに傷付かない。
そりゃあ、好きでもない奴とやるのはいい気分はしないよ。本当はあんまりやりたくないよ。でもその程度なんだ。僕と同じことされたら三日で自殺しそうだってエスラールも言ってたし。死ぬほどやりたくないってのが普通なんでしょう? だったら代わってやってもいいかなって。誰かが死ぬくらいなら僕がやるよ。僕は割り切れるし、それが僕の役目なんじゃないかって思って。でも善意じゃないんだ。誰かのためとかじゃない。なんだろう、漠然とした義務感なんだよ。
昔さ、僕にも友達がいたんだ。でもその子、死んだんだ。自殺。すごくすごく可愛い子で、もう女の子みたいで、僕と同じ目に合ってて、それで死んだ。僕、代わってやればよかったと思ってさ。その子のぶんまで引き受けてやればよかったよ。僕は淫売だもの。僕だったら耐えられたのに、それなのに、自分の事しか考えてなかった。もう二度とあんな思いはしたくないよ。誰かのためじゃないんだ。庇ってるんでもなくて、そういうのが嫌なんだ。僕は自分のために犠牲者でいたかったんだよ」
昨日、エメザレを間近で見たときの、あの直感は間違いではなかったと思った。
エスラールが見抜いたエメザレの本質は幻ではなかった。現実の逃避で生み出した妄想ではなかった。
エメザレは死んでない。狂っていない。汚泥が表面にかぶさって真理を妨げていただけだ。なのに二号隊では誰からも理解されなかった。でも、どんなに蔑まれてもエメザレは自分の信念を捨てなかった。正義のつもりはなかったのかもしれない。しかしエスラールには、エメザレのしていることがとても正しいように感じられた。
ああ。好きだな。と、そのとき思った。
「エメザレは淫売じゃないよ! 絶対。優しいだけだよ。すごく優しいんだよ。お前、すごくいい奴だよ」
「ありがとう……。そんなこと言われると思わなかった。気持ち悪いって言われると思ってた」
エメザレは恥かしそうに毛布から顔を上半分だけ出した。
「そんなわけないじゃん! 気持ち悪いなんて思うわけない」
エスラールが言うと、エメザレはまた毛布をかぶって限界まで縮こまり、呟くように話しはじめた。
「シマ先輩さえ僕のものにできれば、二号隊を変えられるんじゃないかって思ったんだ。だからここ一年、二人きりになったときに好きだって猛アピールして、これでも精一杯尽くしてきたつもりだったんだけど、あんなにあっさり切り捨てられるなんて……なんかバカみたい。ここまで空回りだと、さすがに悲しいよ。僕のしてきたことは全部無駄になるんだ。新しい犠牲者が選ばれて、僕はそれを噂で知ることになるんだろうね。僕はもう部外者だから、止めることも叶わない。傍観するしかないんだ」
「わかった。エメザレの望みがわかった。二号隊、変えよう。シマ先輩もロイヤルファミリーも、二号隊を全部変えよう! 俺は新しい犠牲者のことも放っておけないよ。そういう性分なんだ。このまま知らんぷりはしたくない。だから変えよう。それしかない」
「そんなの無理だよ」
エメザレは驚いたように起き上がった。
「今までは無理だった。それはエメザレが一人でなんとかしようとしてたからだ。これからは俺がいるよ。俺、総隊長に頭下げるよ。総隊長なら絶対協力してくれる」
エスラールは起き上がったエメザレの肩を掴み、言い聞かせるようにして言った。
「サイシャーン先輩に……?」
「俺のこと、信じて」
暗くてよく見えなかったが、エスラールはエメザレの目を見た。
「うん。わかった」
暗闇の中で微かにエメザレが微笑んだ気がした。
【
前へ 次へ】