昔々ある小さな村の端っこにペドラネという卑しい売春婦が住んでいました。彼女の母親も売春婦で誰の子かわからないペドラネを一人で産んで育てて、完全に年老いて買い手がつかなくなる前にとっとと死んでしまいました。

 母親は自分勝手で口汚く、下品で意地が悪くてひどい嘘つきで、魂が根底から湾曲した悪の権化のような存在でしたが、ペドラネもその母親と瓜二つの性質を持ち合わせていたので、もちろん村のひとびとからは嫌われ、あるいは恐れられ、あるいはペドラネなどという売春婦は全くいなかったことにされました。

 けれどもペドラネはとても美しい外見をしていました。ミルクのように白い肌と、穏やかで優しい青空のような薄い水色の瞳を持っていて、いつも性器の名を連呼しているのが信じられないような、爽やかで上品な顔立ちをしていました。二十五歳でしたが肌はまだまだ張りがあり、若さに陰りも見えず、大きな乳房は適当な硬さを保って優しく完璧な丸みを帯びていました。地毛はクリーム色をしていましたが、売春婦はオレンジ色に染めなければならない決まりがあったので、彼女は豊かな髪を鮮やかなオレンジに染めていました。

 ペドラネは確かに厭忌されていましたが、常連のお客からは崇拝され愛され、たくさんの貢物を頂いていたので、村の畑仕事ばかりしている女より、よほど素晴らしい暮らしぶりをしていました。

 ある日の、日が沈みかけた時のことでした。ペドラネがなんとなしに窓から外を眺めていると、村一番の荒くれ者で飲んだくれのレーリンズが、嬉しそうに走っている姿が目に入りました。

 そのレーリンズの笑顔にはなんだか懐かしいものが含まれているような気がしました。まるで子供の頃に綺麗な石や、珍しい花を見つけて、嬉しくて母親に見せに行く時のように、純粋な気持ちに溢れているように見えたのです。

 レーリンズはいつも酒を持ち歩いていて、おぞましい負の言語を唱えてあらゆるものを蔑み罵りながら、貧しさがもう染み付いて離れない最下層の貧民のように、ちびちびちびちび飲んでいました。

 ペドラネが知る限り、レーリンズはいつも怒っていました。理由があるわけではなくて、きっと自分自身のことも、その他のひとのことも、たぶん世界中にあるほとんどが、なんとなくとてつもなく大嫌いだったのでしょう。ペドラネはその気持ちをよく知っていました。ですから彼女はレーリンズと適当にうまくやることができました。

 ペドラネはレーリンズのことが気になって、外に出ることにしました。ペドラネはあまり外へは出ませんでした。オレンジ色の髪の毛は隠すことを禁じられていて、色彩の鈍い村の中ではオレンジ色はとても目立ち、遠くからでも自分の職業が知れてしまうし、彼女が売春婦だとわかると、善良ぶった愚かな村人たちはけして親切な顔を向けてくれなかったからです。
 
 ペドラネは急いで外に出ましたが、レーリンズの姿は既に小さくなっていました。レーリンズが進む方向には村がありましたが、根性の悪い村人たちの不親切にはうんざりしていたので村へは向かわずにレーリンズが来た方へ歩いて行きました。

 ペドラネの家は村の外れ外れにあり、家の隣はすぐ森になっていました。森の中には村人たちが飼っている豚が放されています。豚は森に放しておけば木の実やら草やら、適当なものを食べて勝手に大きくなるのです。レーリンズはおそらく豚の様子を見に行っていたのでしょう。

ペドラネがしばらく森の中を歩いていると、向こうから十歳くらいの不思議な女の子がやってくるのが見えました。

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