家族ごっこ2
2013/11/08 19:04



結局楓は風呂に入ると、修吾には一瞥もくれず寝室に行ってしまった。
手をつけられなかった夕飯を明日の弁当にするために冷蔵庫に仕舞い、洗濯機を回す。
漸く布団に入った時には深夜を過ぎてしまっていたが、それでもこうして安心して眠れる布団があるだけで幸せだった。
真っ暗な天井を見るといつも思う。
楓さんはいつまで俺を置いてくれるだろう。
母さんは帰ってくる気はあるんだろうか。




「楓さんおはようございます!あの、今日は朝ご飯食べていきますか?」

朝は楓よりも必ず早く起きた。
必要なら朝食を用意するためだ。
修吾は知っている。楓は修吾がいないように接する割には、それなりに冷蔵庫に食材を補充してくれていることを。
楓と住み始めてから、あの冷たく寒くなっていく地獄のような飢えを感じた事がない。
だからせめてもの恩返しと、償いに。修吾は今日も溌剌と楓に話し掛ける。
それでも結局は、楓は無言で出社していった。それもいつものことだと、修吾は自分で作った朝食を食べ部屋を軽く掃除し、学校へと向かった。



真っ暗なリビングで目が覚める。自己学習を終え、少し眠ってしまっていたらしい。

やばい……御飯作らないと……楓さんが帰ってきちゃう。洗濯物もしまわないと……

作ったからと言って楓が食べることがないことは分かっているのだが、それはもう修吾の中で日常と化していた。
ただ、何か楓のためにしてあげたい。その気持ちだけだ。
慌てて電気をつける。時刻は午前1時を回ろうとしていた。
おかしい。いつもなら、とっくに帰ってきている時間だ。
もしかしたら、もう帰ってきて寝ているのだろうか。
そうかもしれないと、納得しかけた時だった。
玄関が開く音がする。

「楓さんお帰りなさい、すみません俺寝ちゃってて、今日御飯作ってないんです……!」

慌てて出迎え、修吾はぎょっとしてしまう。
普段は嫌そうに自分から直ぐ目を逸らす男。
長身の美丈夫が、真っ直ぐに自分を見下ろしている。
いつもとは様子の違う楓に、恐る恐る声をかけた。

「か、楓さん……?ごめんなさい、俺、御飯作れなくて……」

ふ、と楓が笑う。次いで盛大に笑いだした。
修吾はあまりのことについていけず、その場で固まったまま楓を呆然と見上げていた。
楓が、再び修吾に目線を合わせる。
蔑むような、嫌な視線だった。

 



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