闇より誘い、そして2



「あっ……やっ……」


どこか現実感を伴わない弛緩した空気の中で、気付くと自分の口からは甘い声が漏れていた。

どうしてこんなことになったんだろう、と思考を巡らせようとするが、霞みのかかった頭の中は重くて鈍く、あまり役に立ちそうもなかった。


「マリクぅ……」


ハッキリとその名を呼んだはずが、ひどく舌足らずな声しか出なくて、その間抜けさに自分でも愕然とした。


これは――、きっと、あのロッドで、マリクに何かを――


「っ……んんっ……!」

ゆっくりと回り出した頭はまたしても遮られ――

その原因となったのは、自分の唇に重ねられたマリクの唇で。

それに呼吸を奪われると、身体の奥に切ない痺れと小さな熱が生まれた。


「んっ……ふ……っ、まり、ん……!」

耳を塞ぐように頭を両手で押さえこまれ、しなやかな褐色の指が髪を掻き乱す。

苦しくて頭を振ってみるも、舌を絡み取られながら緩く舌先を吸われたところで、その生温い感覚と耳をつく僅かな水音に理性は溶かされて。

自分でもわけがわからなくなるほど熱くなっていく身体を、ただ感じるだけなのだった――


「はぁっ……、はぁっ……
ま……、まり……

身体が、なんか、おかしい――」

「フ……
余計な事は忘れちまいなぁ……
その火照りに身を任せ……、淫らに壊れちまいな……」

「っや、あ……!」


身体に力が入らない。

マリクに触れられた部分はたちまち熱を生み、その指の先、肌に落とされた唇の一つ一つに身体が敏感に反応し、頭の端と閉じた脚の中心を痺れさせていく。

朧げな意識の中でふと冷たい空気が胸を撫で、そこで初めてシャツをマリクにたくし上げられた事に気付いた。

「だ……」


咄嗟に遮った手は当然、力を失っていて。


「マリク……、あ……っ、ああ……っ!!」

顕わになった胸の膨らみ、その先端を、長く蠢く舌で舐め上げられた瞬間、つんざくような電流が背筋を駆け上がっていった。


「や……、あっ、ま、り……くぅ……
ん、んあっ、あぅ……」

自分のものとは思えないあられもない声が唇を震わせた事に気付きはしたが、今更どうにもならなくて。


「やあぁっ……、だめぇ……っ、あっ、や……!」

身を捩って、マリクによってもたらされる快感に耐える。


「ハハッ……
瑞香……、抗うな……!
このままイカレちまいなぁ……!

オレだけを見て、オレだけを感じて……
くだらねぇ事は全て忘れちまいなぁ……!!
一緒に闇に堕ちようぜぇ……!
ハハハハッ……!!!」

「や……あ、マリクぅ……っ!
はぁぁん、んっ、あっ……!」


闇へと誘うマリクの甘い声が、耳を撫でて脳を揺さぶっていく。

いつもより敏感になっている身体に、恐らくロッドの力によるであろう不穏な気配を感じはしたが、今更抗う力も自分には残されてないのだった。


「あぅ……ん、まり、くぅ……!!」

それどころか、身体を痺れさせる甘い疼きが、どうしようもなく全身を支配していき――


「マリク……、あ――

すき……っ……! んっ、あ……っ!!」

予期せぬ言葉が嬌声と共に口をついて出た事にすら、気付かなかったのだった。


「ククッ……瑞香……!!
随分可愛らしい声で啼くじゃねえか……
もっと啼かせてやるよ……
オレに縋り付いて哀願するくらい……

オレ無しじゃ居られないくらい……、壊してやるよ……!!」

「っ、あ、だめぇっ……!!!」


拒否の言葉は拒否でない事は自分でもわかっている。

それでも、僅かに残る羞恥心が、欲求をそのまま発露する事を拒んでいた。


「まだそんな事を言ってるのか……
ククッ、強情だねぇ……

全部捨てちまった方が楽だろう……?
どうせオレには抗えねえんだからよぉ……!」

「んっ、あ……
っっああぁ……っ!!!

やっ、だめっ、まっ……!!
マリクぅぅ……っ! ああっ、あっ、んんっ……!!!
そんなの、だめぇっ……!! あ――!!」


ビクリとのけ反る背中。


あろうことか――

切ない熱を帯びて収縮する下半身の中心を舌先で蹂躙され、炸裂した甘い電流が一瞬で脳を灼いた。


「あっ、ああっ、やっ、だめぇ……っ!!
んっ、や……!! っめ……!

んんっ! あぁん、やっ、ほんとにっ……、あっ、だめ……っ、」


手を伸ばして、下半身に顔を埋めるマリクの頭を押しのけようとするが、例のごとく腕には全く力が入らないのだった。

どうすることも出来なくて、逆立つ色素の薄い金髪を指で掻き乱す。


上りつめていく熱情が、最後に残った羞恥心を焼いて膨らんでいく――


「っあ、だめっ、マリク……っ!!
そんなにしたら、あっ、もう、やっ……、あああん!!!」

霞みのかかった意識のまま、瞼の裏が白く爆ぜ――

緩く溶けだした熱と歪んだ空間が、私の思考という思考を全て押し流したのだった――――



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